忍ぶれど
色に出でにけり わが恋は
物や思ふと 人の問ふまで
「よーし、染岡!もう一回だ!」
「おぅ!」
休憩中だというのに、円堂は染岡と二人でシュート練習をしていた。
「………」
風丸は秋から受け取ったドリンクを手に持ったままその様子を見ていた。
キラキラ…
あの笑顔は太陽みたいだ。
知れず、微笑む。しかし、その笑みはどこか切な気で…やがて円堂から視線を逸らした。
良いんだ…自分は円堂の側に居られるだけで幸せだから。
この想いが届かなくても良い。同じフィールドに立って…同じ風を感じて、
それだけで、幸せだ。
この想いは俺の中にだけあれば…俺が円堂の事を好きだなんて、そんな事を知っているのは俺自身だけで良い。
「風丸」
「鬼道か…どうした?」
「俺がお前にそう問いかけたい訳だが」
「は?」
木の下に座って休んでいた風丸を見下ろす鬼道は、数秒黙った後に風丸の隣に腰を下ろした。
「何かあったのか?…そんな顔をしている」
「………」
「まぁ、言いたくないならソレで構わないが」
鬼道は視線を風丸からグラウンドに移す。
「円堂…」
「…っ?」
「不思議な奴だな…そう思わないか?俺が帝国にいた頃は雷門は弱小…それどころかサッカー部さえなかったのに、円堂から始まった」
「あぁ…」
「風丸…」
「何も言わないでくれると有り難い」
「…そうか」
風丸は鬼道の観察眼に内心で舌を巻く。『こいつには敵わないな』と苦笑しながら言った。
「勘違いしないでくれ。俺は今の状態に満足してる…幸せなんだ」
「そうだな…」
「しかし、お前は凄いな」
「?」
「相手が円堂じゃなくて、お前だったらと思うと怖いよ。鈍い奴で良かった」
風丸がそう言えば鬼道は悪戯っぽく笑う。
「もしも、俺なら俺は気付かないフリをするよ。お前が歩み寄ってきてくれるまで」
「なにそれ惚れそう」
「勘弁してくれ」
そこまで話して二人で笑っていると円堂が駆け寄ってきた。
「そろそろ練習再開するぞー…って、何か楽しそうだな」
「あぁ、お前の話だ」
「ん?」
「円堂はサッカー馬鹿だなって」
二人は立ち上がり、そう言って円堂の肩を叩く。
「サッカー以外には目が向かないもんな」
「んー?」
「行くぞ。練習再開するんだろう?」
鬼道に促され、円堂は既に今のやりとりを忘れたかの様に笑顔で「おぉっ」と頷いて先に歩き出した鬼道に続いた。
風丸も少し遅れて歩き出す。
前を歩く円堂の背中を見て、少しだけ困った様な笑みを浮かべた。
まいったな…
『秘めた恋心のはずが、顔に出てしまっているようだ。他人に“何かあったのか”なんて訊ねられる程に』