体育館に入った円堂達が目にしたのは並べられた椅子に、舞台に掲げられている【入学式】の文字。

遅れて入ってきた円堂を見て佐久間が笑う。

「ほら、普通の入学式だろ?」

「あぁ…」

円堂がそう頷いた時だった。「普通」ではない事態が起こる。




「あ、皆集まったー?それじゃ、入学式始めちゃうよー?」


能天気に響く声。生徒達が舞台に目を向けた瞬間、演壇の下からペンギンが飛び出し。その上に座った。



「………ぬいぐるみ?」

照美がこてん、と首を傾げながら呟くとそのペンギンが喋った。


「ぬいぐるみじゃないよ!ボクは君達の…この学園の!学園長なんだからね!」


「……は?」

「ヨロシクね!」

「ぬ、ぬいぐるみが喋ったぁ!」

目金の叫びに砂木沼が眉をひそめて唸る。

「落ち着け。ぬいぐるみの中にスピーカーでも仕込んでいるのだろう」

そんな二人のやりとりにペンギンは「はぁ…」とため息をついた。

「だからぁ、ぬいぐるみじゃなくて学園長なんですけど!」

両方の羽をぶんぶんと振り回し怒りを表現しながら再び自らを「学園長」だと宣言するペンギンに再び目金が叫ぶ。


「ぬいぐるみが動いたぁ!」

「だから落ち着け。ラジコンか何かだろう」

今度は源田に宥められる目金だったが、ペンギンは肩を落として暗くなる。

「ラジコン…そんな子供の玩具と一緒にしないでよ…ボクにはNASAもびっくりの遠隔操作機能が搭載されていて…」

そこまで言ってぶんぶんと身体を左右に振る。

「って、そんな子供にサンタはいないって言うみたいに夢をぶっ壊すような説明させないでよー!!」

「いきなりキレたで…」

「じゃ、時間もおしてるんで巻きで行くよ、巻きで♪」

「キャラがブレてない?」

「俺達、無視だね」

「…じゃ、入学式始めるよ」

「あ、諦めた」


ペンギンは生徒達との絡みをやめ、入学式の進行を始めた。


「起立、礼。オマエラおはようございます」

誰一人、挨拶を返すことはなかったがペンギンは構わず続けた。

「さっそく、記念すべき入学式を始めたいと思います。まず、オマエラの学園生活について一言…えー、オマエラのような才能溢れる生徒達は世界の希望に他なりません。そんな素晴らしい希望を保護するために、オマエラには……この【学園内だけで】共同生活をしてもらいます。皆、秩序を守って仲良くね!」


「…は?」

円堂が思わず溢した声も聞こえないかのようにペンギンの話は進む。

「ちなみにこの共同生活の期限ですが……期限はありません!つまり、オマエラは死ぬまで一生この学園で暮らすのです!」


「え……何?どういう事?ここで一生って…?」

吹雪が不安げに一歩前に出ると、ペンギンは「心配しなくてもダイジョーブ」と言った。

「予算は豊富だから、オマエラに不自由はさせないよ!」

「そういう心配をしているのではないわ!」

夏未がそう叫び、春奈も「そうよ」と同意する。

「意味が分からない。一生ここで暮らすとか…嘘でしょ?」

「ボクは嘘つきじゃないよ!本当だよ!」

憤慨したように言った後、ふと思い出したように「あ、そうそう」と付け加える。

「言っておくけど、外の世界とは完全にシャットアウトしてますから。もう汚い外の世界のことなんて気にしないで良いからね」

「シャットアウトって…」

円堂が目を瞠り、ペンギンに詰め寄る。

「じゃあ、あの廊下や教室の窓の鉄板って、俺達を外に出さないためって事か!?」

「そう」

あっさりと認めたペンギンに言葉に詰まる円堂。ペンギンはおかしそうに笑いながら言った。

「だからどんなに叫んだって外には声は届かないし、助けも来ないよ。オマエラは思う存分この学園生活を楽しんでいいからね!」


「えぇ…と、何これ?」

マックスは引きつった笑顔を顔に貼り付けて乾いた笑い声を漏らす。

「ちょっと悪ふざけがすぎるんじゃない?」

「あぁ、いい加減に冗談では済まないぞ」

さすがに、源田もイライラとした様子でペンギンを睨みつけた。すると、ペンギンはゆらゆらと身体を揺らめかせて「うーん…」と唸る。

「さっきから嘘だとか冗談だとか…疑り深いんだから。ま、他人を疑っていかないといけない世知辛い世の中だから仕方ないよね。でも、ボクの言葉が本当かどうかはすぐに分かるよ。オマエラがこの学園から出られないのは事実だからね」

「一生ここで暮らすとか…そんなん冗談やないで」

リカがそう言うとペンギンは首を傾げる。

「オマエラは変な人達だねぇ?だって、オマエラは自分の意思でこの希望学園に来たんでしょ?それなのに入学式の途中でもう帰りたいなんて…まぁ、ぶっちゃけここから出られる方法がない訳じゃないよ」

「ほ、本当?」

僅かな期待に吹雪が表情を緩ませた。

「学園長であるボクはオマエラの為に特別ルールを作ってあげたよ!それが【卒業】というルール」

「卒業という……ルール?」

風丸が訝し気な表情を浮かべるとペンギンはウンウンと頷いた。

「では、この特別ルールについて説明しましょーう」

その場の雰囲気にはそぐわない明るい声音でペンギンが説明を始めた。

「オマエラには学園内で秩序を守った生活を送ってもらうように義務付けたわけですが、その秩序を破った者が現れた場合はその人物だけがこの学園を去ることになるのです!それが【卒業】のルールだよ」

「その【秩序を破る】とは具体的に何を示すんだ」

鬼道のその質問にペンギンは「うぷぷぷ…それはね」と肩を震わせて笑う。





    「人が人を殺すことだよ」




「こ、殺す…?」

円堂は余りにも予想外な言葉に一瞬その意味が理解できなかった。
ペンギンは今までの明るい声とは違った落ち着いた声で続きを話す。

「撲殺刺殺絞殺毒殺……殺害方法は問いません。誰かを殺した生徒だけがここから出られる。ただそれだけの簡単なルールだよ。最悪の手段で最良の結果を残せる。せいぜい頑張ってください」


悪寒が身体を駆け巡る。
何を言っているのだこの【学園長】は…、


「さっきも言ったけど、オマエラは世界の希望。そんな希望同士が殺しあう絶望的なシチュエーション……すっごいドキドキするね!」

「な、何言ってんだよ…殺しあうって」

マックスが後ずさるとペンギンは首を傾げた。

「殺しあうって言ったら殺しあうんだよ?日本語分かんないかな?」

「意味なら分かってるよ!そうじゃなくて!何で俺達が殺しあわなくちゃいけないんだよ!」

「そうです!早く僕達を家に帰してください!」

緑川の怒鳴りに目金も続き、ペンギンを睨む。今は恐怖よりも怒りが大きかった。何故、自分達はこの様な理不尽な扱いを受けているのか。



「……本当に物分りの悪い連中だね。さっきから聞いてれば帰りたいって同じ事を何度も何度も何度も何度も」

ペンギンは苛立った様子でそう呟き、直後に大きな声で言った。

「そんなに帰りたいなら、いくらでも殺させてやるからさっさと殺して殺して殺しまくれっつーーーの!!」


「………」



「はぁ…いつまでやってんだよ」

沈黙を破ったのは、呆れた表情で溜め息をついた佐久間だった。




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