「おい」

円堂が辺りを見渡し、呆っとしていると咎めるような冷たい声音が玄関ホールに響いた。
その声の主は鬼道。胸の前で腕を組み、イライラとした様子で言葉を紡ぐ。


「いつまでも自己紹介をやっている時間が惜しい。そろそろ本題に入るぞ」

言われて思い出す。
そう言えば先ほど「異常事態」だとか「これからの問題」だとか言っていたような気がする。


「そうね…」

夏未が口元に指先を添えながら困惑した表情を円堂へと向けた。


「円堂くん、あなたさっき言ったわよね?いつの間にか寝ちゃってたって…実は私達もなのよ」

「え、全員?」

円堂が目を丸くして驚くとマックスが面倒臭そうに頷いた。

「そうなんだよー。玄関ホールの中に入った途端に気絶しちゃってさぁ、気が付いたら校内で寝てたって訳」

「でも、おかしいだろ。全員が同じように気絶して、別の場所で寝てるなんて…」


円堂が首を傾げて唸っていると、源田も頷き円堂の言葉を肯定する。

「あぁ、おかしい…そしてこの状況。どうしたら良いものか」

この状況…円堂はその言葉に誘われるようにチラリと周りに目を向けた。すると、砂木沼がタイミングを計ったかのように話し出す。


「異常なのは全員が気を失ったという事だけではない。お前らも気付いているだろう?教室や廊下の窓を…何故、全てにあのように鉄板が打ち付けられているのか」

「それに、私達の荷物もどこに行ったんだろ」

春奈が落ち込んだ様子で肩を落とし、呟く。

「携帯もなくなってるし…色々と情報が入ってたのにー」

春奈のその言葉に照美もハッとして、直後に眉尻を下げた。

「そう言えば…私のPADもない。プログラムが…」

「妙なのはこの玄関ホールもだ。なぜ、奥の扉までもが鉄の扉で塞がれているのだ」

砂木沼は奥の扉を示し、腕を組む。

「私が入ってきたときはあのような物はなかったぞ。一体何なのだ」

砂木沼の疑問に答えられる者はなく、一瞬沈黙が訪れた後に「もしかして…」と春奈がおずおずと発言した。

「私達、何かの犯罪に巻き込まれてしまったんじゃ…」

マックスは「冗談よしてよ…」と青い顔をしながらも可能性を考える。

「まさか誘拐されたとかないよね?俺ら全員が希望学園からどこか別の所に連れ去られたとか」


「そうシケた面すんなって」

不安げな皆に比べ、佐久間は飄々とした様子で手を振る。

「あれなんじゃね?学園が企画したオリエンテーションとか何とか…そんな事より俺はもう疲れたから休みたいんだけど」

佐久間の楽観的な考えにホッとしたのか照美も僅かに微笑んで己に言い聞かせるように頷く。

「そ、そうだよね…私達を驚かせるためのドッキリか何かだよね?」

「えー、そうなの?じゃあ、俺も昼寝とかしちゃうよ?昨日徹夜したからめちゃくちゃ眠いんだよねぇ」

マックスもそう言い出し、一瞬だけ皆の緊張が解けたその時。



 − キーン コーン カーン コーン …



鐘の音が鳴り響く、

玄関ホールに設置されていたモニターに砂嵐が起こり、何かのシルエットを映し出した。
そして、響く声。


『えー、マイクテストー。マイクテストー。校内放送だよ!大丈夫?聞こえてる?』


変声機で声を変えたかのような機械的な声音で突然始まった校内放送。その場違いなほどに能天気で明るい感じに円堂は思わず眉根を寄せる。
一同は一瞬身体を強張らせ、近くの人の表情を覗ってからモニターへと視線を向けた。

校内放送は続く。


『えー、新入生の皆さん。今から入学式が始まりますので至急、体育館にお集まりくださ〜い!…って、感じでヨロシク』


 − ブツッ

と、放送が途切れ、再び静寂が戻る。


「…………」

「……え?」

春奈がオロオロと皆の表情を見る。

「な、何なの今の…どういう事?」

「…じゃあ、俺は先に行くぞ」

困惑する他の生徒達をおいて鬼道は一人、校内の奥へと歩いていった。

「ちょ、ちょっと勝手に行かないでよ!」

春奈の言葉にも何の反応も示さずにいなくなった鬼道を見送った後に佐久間は首を傾げる。

「入学式…?じゃ、これも入学式の催しものとかなんじゃね?」

手をひらひらと振りながら「じゃ、俺も行くわ」と鬼道に続く。

「せっかく昼寝できると思ったのに…」

不満げにぶつぶつと文句を言いながらマックスも歩き出す。

「あ、待って。私も一緒に行く」

置いていかれることが怖かったのか、照美が慌てたように駆け出すとリカも頭を掻き「ほな、ウチも行くわ」と面倒臭そうに体育館を目指した。

「えっと…じゃあ、僕も…行こうかな」

誰かに言う訳でもなく小さくそう呟いた吹雪がとぼとぼと歩き出すのを見ても円堂はまだ動き出せずにいた。



何だか嫌な予感がする。


そう思ったのは円堂だけではなかったようだ。


「…本当に大丈夫なのかしら?」

夏未が疑うように低く呟くと、春奈も大きく頷いた。

「そう!今の校内放送もすっごく怪しかったし!」


そこで、今まで黙っていた風丸が静かに言う。

「だが…ここに残っていても危険から逃げられる訳じゃない。それにお前らだって気になるだろう?俺達の身に今、何が起こっているのか」

「なるほど」

風丸の言葉にヒロトが微笑んだ。

「先に進まない限りは何も分からないまま…そんなの嫌だね。それじゃ、行くしかないか」

「確かに…そうだな」

円堂も渋々頷いた。



行くしか……ない。



円堂は残った生徒達と共に体育館を目指した。


「しかし…何と言うか、希望学園とは暗い場所なのだな」

体育館へ向かう途中に源田がそう呟くと夏未がチラリと視線を向けてきた。

「それに…どうして誰にも会わないのかしらね?ここまで歩いてきて校内で誰にも会わないなんて」

「本当にヤバくないかなぁ…」

「我々を馬鹿にしているのか」

「どっちにしても先に行くしかないって。虎穴に入らずんば、虎児を得ず。だよ!」

比較的、明るい緑川がニコニコと笑う。


「そうだね」

ヒロトもそれに笑って頷く。

そして円堂達は体育館に着き、その一歩を踏み出した…。



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