君がため
惜しからざりし 命さへ
長くもがなと 思ひけるかな
「太陽くん!また君は病室から抜け出して!」
病院の庭の片隅にて、リフティングやドリブルの練習をしていた太陽は冬花に見付かり、叱責を受けていた。
悪い事をしている自覚はある。しかし、太陽にはただ病室のベッドの上で空しく流れていく時間が惜しかった。
「で、でも冬花さん…サッカーの練習をしないと」
「いけません!…太陽くん、サッカーをやりたいならちゃんと治してからじゃなきゃ」
「今じゃなきゃ駄目なんだ!」
「太陽くん…」
「…ごめんなさい」
太陽は地面に転がるボールを取ると、暗い表情で病室へと戻っていく。
冬花は小さく溜め息をついて少年が背負うにはあまりにも無情な現実を嘆いた。
今じゃなきゃ駄目なんだ…僕には“次”の保証なんてない。
病室に戻り、テレビを付ける。ホーリーロードの特集番組が流れてサッカーをする少年達が映る。
「君と、サッカーしたいな…天馬」
テレビの向こう側には楽しそうにサッカーをする天馬。
初めて天馬を見た時、世界が変わったかのような錯覚に陥った。今のサッカー界であんなに自由に、あんなに楽しそうにサッカーをしている。
すぐに天馬に惹かれていく自分に気付いた。
君とサッカーがしたい。
君の風を感じてみたい。
君に、会いたい。
「僕は雨宮太陽」
「俺は…」
「松風天馬。知ってるよ。テレビで見た」
実際に会った天馬は思っていた以上に素敵な子で、ますます知りたくなった。
同じフィールドに立って、真剣に勝負がしたい。
僕には時間がないかも知れない。
「本当に試合に出るのか?」
「はい。僕には今しかない。彼と試合がしたい…その為なら… 」
フィフスセクターとか…聖帝とかどうでも良かった。
ただ、天馬と一緒にサッカーがしたかった。
「太陽!?」
天馬は太陽に駆け寄り、不安気な表情を見せる。
「大丈夫なの?身体は…」
「良いんだ」
「えっ」
天馬の腕を掴む。ハッとして己を見つめる天馬の瞳を見つめて振り絞るように覚悟を語る。
「僕には今しかない。天馬…君と今、試合が出来る。それで充分なんだよ」
その為なら、
死んでも…構わない
本気で試合をした。
天馬は俺の意思を尊重してくれた。やっぱり天馬は素敵な子だ。
天馬と一度だけ試合が出来たらもう満足だと思ってた。
でも、
何でかな…?
「天馬…」
「太陽…?」
「変だな…僕はこの試合に賭けてた。この試合が終わったら、死んでも構わないって、そう思ってた」
「……」
フィールドに横たわる太陽の隣で天馬はただ、太陽の手を握る。
「でも…」
太陽はポロポロと涙を流す。
綺麗な青空が歪み、天馬の顔もよく見えない。
「…生きたい」
また、この光溢れるフィールドに…太陽の下に。
「生きたいよ、天馬…っ」
「うん。大丈夫…また一緒にサッカーやろう!」
強く、強く…
自分の手を握ってくれる天馬の手は、
太陽の光のように暖かかった。
『君に会う為ならば惜しいとは思わなかった僕の命でも、君と会うことが出来た今は…いつまでも生きていたいなって思うよ』