恋すてふ 

  わが名はまだき 立ちにけり

    人知れずこそ 思ひそめしか







「で、ヒロトに告った?」

「………は?」

サッカーの練習から帰ってきての晴矢の突然の発言に緑川は一瞬頭を真っ白にして、やっとの思いで引きつった笑顔を顔に貼り付けた。

「意味分からない…何の話?」

大体、話の脈絡も何もなくの第一声にしては相応しくない言葉だろう。

「何のって、お前がヒロトに告るって話」

「どっからそんな話が出たんだよ!」

「うるさいぞ。何事だ」

思わず怒鳴る緑川に晴矢より遅れて帰ってきた風介がしかめ面を緑川に向けながら、会話に加わる。

「緑川がヒロトに告る話」

緑川に対するものと同じ答えを風介に向けると、風介は「あぁ…」と納得したかの様に腕を組んだ。


え、そこ納得するトコ!?


てっきり、風介は「何を寝惚けた事を言っているんだ」などと返すと思っていた緑川はあんぐりと口を開けて風介を見る。

「間抜け面」

晴矢に指摘され、慌てて表情を作って晴矢を睨む。

「どうせ、緑川は惚けているのだろう」

「その通り」

「絶対に自分からは言わないのだろうな」

「先が思いやられる」

「待って待って待って」

己を無視して話を進める二人を緑川が止める。


「何でそんな話になってるのっ?」

「何で…?皆、緑川はいつヒロトに告るんだろうって話で持ちきり」

「嘘…」

「嘘じゃない。お前、分かりやすすぎ」

「…………」


そんな馬鹿な…、
まさか自分のヒロトに対する好意は周囲に駄々漏れだった訳か、

どんな顔してヒロトに会えば良いのか…



「あれ、3人とも何の話してるの?」

そこに空気を読んだのか読まなかったのか、当のヒロトが現れて緑川は真っ赤になりながら両手を振った。

「何でもない!何でもないから帰れ!」

「…いや、俺今帰ってきたところなんだけど」

「部屋に帰れ部屋に!」

「酷い、何これ虐め?」

「今は従った方が良いぞ」


ヒロトは「晴矢達が何かしたんじゃないのー?」などとぶつくさ言いながらおとなしく部屋に向かった。



「………」

「………」

「………」

「ヒロトには言わないで下さいお願いします」

「…大丈夫だと思うけど」

土下座しそうな勢いの緑川に圧されながら晴矢が言い、風介は溜め息をつく。

「駄目だよ、絶対に駄目!まだ色々と心の準備がほら」

「まぁ、別に良いけど」



「ヒロトが部屋で拗ねてるんだが、緑川はまだヒロトに告白しないのか?」

「うわああああんっ」

「砂木沼、空気読めよ」

「はぁ…」

「む…?」








  『俺が恋してるって周りにバレてる…知られない様に密かに想い始めたばかりだったのに!』




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