それは砂木沼のこんな一言から始まった。
「お前らは恋愛対象として付き合っているのか?」
砂木沼の口から「恋愛」等という単語が飛び出し、思わずお互いの顔を見るヒロトと緑川。そして、晴矢と風介。
何故、砂木沼が己に似つかわしくない単語を口走ったかと言うと、それは1時間程前に遡る。
「砂木沼さんっていつもバカップル達の側にいて大変ですね」
「?」
瀬方のこの言葉に砂木沼は首を傾げた。
「誰の事だ?」
「え?誰って…ヒロト達の事ですよ?」
「なんと」
そして、冒頭の言葉である。
「そう…改めて言われるとねぇ」
ヒロトは口元に手を当てて苦笑する。風介も「今更だろう」と腕を組んだ。
「…しかし、お前らは全員男だよな?」
「まさかの冷静なツッコミ」
「ここでは男同士が普通なんだよ」
「ここ?」
「こっちの話」
晴矢と緑川にも当たり前のように言われて砂木沼は唸る。
「お前らが恋人同士らしい素振りを見せた事がないから俄には信じられない」
「うーん…」
ヒロトは暫し考えた後に「あ、じゃあさ」と手を打った。
「お互いに好きな所を言い合うゲームしようよ」
「はぁ?」
「んで、ネタが切れずに最後まで残った人は砂木沼に何か奢ってもらう」
「何で私が…」
「良いなソレ…丁度新しい練習用のユニフォームが欲しかったところだ」
「おい…」
「お互いの愛も確認出来て、砂木沼も納得できて…俺ってば頭良い」
かくして、突如として始まった恋人自慢大会。
「まず俺ね!緑川の好きな所は…全部、って言ったら終わっちゃうから…無難に見た目かな?ポニーテール可愛いし」
「あ、ありがとう…ヒロトはサッカーが上手い所が好き」
「もーっ、緑川ってば可愛い!」
ヒロトに「可愛い」を連発され、照れる緑川に砂木沼は「普段と違うな」等と考えていた。
「では、次は私だ…晴矢の好きな所な。そうだな…私を恋人に選んだ審美眼だな」
「すげぇ、褒められたはずなのにイラッとした」
「で、私の好きな所は?」
「あ?あーー…………特徴的な髪型?」
「おい、お前に言われたくないぞ。しかも何で疑問系なんだ」
「…………」
コイツらは信じられん。
砂木沼は疑いの目を二人に向ける。
「あはは、俺達は余裕だよね。次に緑川の好きな所は…すぐ赤くなる所♪」
「俺は…えっと、優しい所」
「チューリッヒみたいな頭」
「チューリッヒって何だ!!」
「予測変換の悲劇」
「何の話だ?」
「何の話だろうな?で、お前は」
「凍てつく闇とか言っちゃう愉快な言動」
「紅蓮の炎(笑)」
「あぁっ?」
「あ、ちょっと…俺の番でしょ!緑川の可愛い所はまだまだあるんだから!」
「も、もう良いよヒロト…恥ずかしい」
「………」
どうしてこんなにも違うのだろうか。
同じ恋人同士であるはずなのに、この2組は全く違うタイプだ。
砂木沼の想像する恋人像に近いのはヒロトと緑川だが、何だかんだ言って目の前で喧嘩腰にもお互いの好きな所を言い合う晴矢と風介は普段は見られない。(その内容が好意的であるかどうかは置いておく)
最早、砂木沼の事など忘れている様な4人に溜め息をついてその場を離れた。
「瀬方…気付かない方が良かった事もあるのだな」
「何か……すみません」
「ところで誰が勝ったんだっけ?」
「私だろう」
「俺だって頑張ったもん!」
「どうでも良い」