「ねぇ、緑川さん」

「んー?」

お日さま園にて、緑川が小さな子供の着替えを手伝ってやっているのを見ながらマサキが話しかけてきた。

緑川は服から子供の頭を出してやり、笑いかけて頭を撫でつつ返事を返す。


「ヒロトさんのどこが好きなんです?」

「はぁっ!?」

予想外の質問に大きな声を出した緑川に子供がビクリと反応する。

「あ、ごめんね…ほら、瞳子さんの所に持っていって」

着替え終わった服を子供に持たせてそう促し、その場から離れさせた。


「…いきなり何だ」

「や、ちょっと参考にしようかと」

「参考?」

「ちょっと気になる先輩がいるけど、素直じゃないタイプだから…同じタイプの緑川さんはどうしてヒロトさんに振り向いたのかと」

「……どこから突っ込んでほしいんだ?」

「え、突っ込み所ありました?」

「大アリだ!何で俺がヒロトと…」

「前にキスしてる所見ましたよ」

「なっ…だから外でやるなって言ったのに………あ」

「………カマかけただけなんですけどね」

「…お前、ムカつくな」

「大人らしくないですよ、緑川さん♪」

ニヤニヤと笑うマサキに緑川は赤くなった顔を押さえる。
自分が大人か…もしくは緑川が中学生ならば、是非ともお近づきになりたい所だが、緑川にはヒロトがいる。

まぁ、ヒロトに勝てる気はしないので最初から無理な話なのだが…


「…別に、どこがって言われてもな。気が付いたら好きだったし」

「最初は凄い逃げられたって聞きましたよ」

「そりゃそうだろ。俺は男だし、ヒロトも男だし…逃げるに決まってる………あれ、狩屋が好きな子って」

「男です。思いっきり。口も性格も目付きも悪いです」

「…好きなんだよね?」

「泣かしたいくらい♪」

「………」

「緑川は泣かせちゃ駄目だからね」

「!?」

「あ、ヒロトさん」

いつの間にか、ヒロトがにこやかな笑顔で立っていた。

「緑川を泣かせて良いのは俺だけだから」

「何言ってんだよ!」

バシッと腕を殴られたヒロトは笑いながらマサキを見る。

「恋愛は押しだよ。特に緑川みたいな自分から素直になれないタイプは押しに弱い」

「なるほどー。緑川さんみたいな素直じゃないタイプは押しに弱いと…」

「俺みたいって連呼すんな!」


かくして、参考になったのかならなかったのか…マサキは内心首を傾げながらアプローチの方法を考えていた。
マサキの想い人は同じ部活の先輩である倉間だ。

DFとFWというポジションの違いから関わる事はあまりないのだが、後方に位置する自分のポジションからはFWの倉間がよく見えた。

果敢に攻める姿勢、一見冷めた性格に見えるがサッカーに対する熱い思いはそのプレイからよく感じられた。

いつしか、倉間の姿を追うようになりこの感情が下心を含むものであると気付くのにそう時間はかからなかった。
そして気付いてしまえば行動も早い。

ヒロトから得たヒントを元に倉間をどう攻略するか考え、実行する。

グズグズしていては獲物は逃げてしまうのだ。




「あれ、倉間先輩まだ残ってたんですか?」

部活も終わり、皆が帰った後に倉間がたまに一人残って自主トレをしている事がある。
さも、知らない風を装ったが事前に調査済みなのだ。


「あぁ、まぁ…もう帰るけど」

着替えの途中で部室に入ってきたマサキに一度視線を送ってからすぐに着替えに戻る。

「ふーん…」

大して興味のない感じで返事をして、忘れ物を取りに来たように見せるために己のロッカーを開けて必用でもなかったペンケースを取った。


「そう言えば倉間先輩って、オカズとかどんなのなんです?」

「おかず?」

シャツに腕を通した所で、マサキの質問の意味が分からず手を止めてマサキを見た。

マサキはゆっくりと倉間に近付き、手を伸ばせば届く所まで来てからにっこりと笑う。

「オナニーする時です」

「おっ……な、何言ってんだお前は!!」

真っ赤になった倉間の反応を意外に思いながら、この初さが逆に良いかも等と考える。

「えー、だって中学生ですよ?思春期真っ只中ですよ?」

「そ、そんな事人に話す事じゃないだろ」

「嘘だー。天馬くん達とは話しますよ」

「えっ」

「浜野先輩とかも」

「マジか?」

「はい」

嘘だけど、


ニコニコと笑うマサキに倉間は段々と不安になってくる。
本当に男子中学生は友人同士で自慰の事を話題にするのか…?自分はやった事ないぞ。


「…ね、先輩」

「っ」

マサキの腕が伸びて剥き出しだった鎖骨をスルリと撫でた。途端にビクリと反応してしまった自分に顔が熱くなる。

「…実践して見せてくださいよ」

「…………は?」

「先輩がどんな感じで自分のモノを擦ってイくのか見せてください」

「な、なっ…な」

「………なぁんて」


真っ赤な顔で言葉が見付からない様子の倉間にクルリと背中を向けて、マサキは出口へと歩き出した。

「冗談ですよ。お疲れ様でしたー。……また明日」

軽く手を降って部室を後にする、


これでいい。
多分、あのまま押せば倉間は流されてマサキに言われた通りに自慰行為をしてしまっただろう。
しかし、一気に落としては後々に逃げられる。

ゆっくりじわじわと取り囲む様に逃げ場を無くすのだ。

マサキを見る度に今日の会話を思い出す。
自慰をする度にマサキの事を思い出す。


まずはソレが大事だ。

自分を意識させる事。そこからが始まり。

ゆっくり追い詰める…
それがマサキのやり方だった。



絶対に逃がさない。



「…掛かった獲物はデカイよねぇ」




部室に残された倉間は、引かない体の熱と激しい動悸の理由。


そして自分が既に網に捕らわれているという事を知らない…。



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