俺の恋人は最悪だ…。
何が最悪かって、
「遅い!!」
「雷門から帝国まで10分で来れる訳ないだろ!」
性格が。
ついでに足癖も悪い。しかも半端ない脚力だから蹴られるとそうとう痛い。
「どうにかしろ」
「俺に時空を超えろとでも言うのか」
俺の恋人、佐久間次郎はいつも俺に無理難題を押し付ける。
出来なければ罵詈雑言の嵐。何でこんな奴と付き合っているのかとよく聞かれる。俺だって、もしも傍観者なら同じ質問をするだろう。
佐久間は持っていた鞄を俺に差し出し言った。
「寮に戻るから。荷物持って」
「………まさか、その為に呼んだのか?」
「他にお前を呼び出す理由があんの?」
本当に、
何でコイツと付き合ってるんだろう。
「はぁーっ、疲れた」
「絶対にお前より俺の方が疲れてる」
帝国寮の佐久間の部屋。
ベッドにダイブした佐久間の隣に鞄を放り投げた。
「あ!馬鹿!鞄投げんな!」
佐久間は何故か慌てて起き上がると鞄の中を探って息をついた。
そして、ギロッと俺を睨む。
「丁重に扱え!」
「たかが鞄だろ」
「…もう良いよ。帰れば?」
「はぁ?」
まさか、本当に荷物持ちの為だけに呼び出されたのか俺は。
「…お前、何なんだよ」
呆れた様に溜め息をつけば蹴りが飛んできて、俺が悶えてる間に佐久間はベッドに潜り込んだ。
「寝る!帰れ!」
布団の中からくぐもった声が聞こえてきてまた小さく溜め息。
「じゃあ帰るけど…制服が皺になるから着替えろよ」
「うっさい」
佐久間の部屋を出た俺は向かいの部屋から出てきた源田に出会した。
「む。…半田か」
「よぉ、久しぶり」
「久しぶり…?あぁ、そうか。久しぶりだな」
「?」
源田の不可思議な言葉に首を傾げていると、源田の方も不思議そうな表情で俺を見た。
「佐久間に会いにきたんじゃないのか?もう帰るのか」
「いや、追い出された」
「は?」
俺は今までの経緯を源田に話した。
すると源田は苦笑で「そうか」と頷くと、手を腰にあてながら提案した。
「せっかく来たんだ。俺に付き合わないか?」
どうせ暇だったし、二つ返事で了承した俺は源田と一緒に寮の談話室らしい所に来た。
「佐久間は素直じゃないからな…あまり悪く思わないでやってくれ」
「…知ってるよ」
俺が笑うと源田も安心したように頷いた。
「でもなぁ、佐久間が本当に俺のこと好きなのか揶揄かっているだけなのか分からん」
机に突っ伏すように言うとクスクスという笑い声が聞こえてきて顔を上げる。
「佐久間はお前に相当入れ込んでいると思うが」
「は?どこが?」
「…お前、昨日の夕食はカップ麺だっただろう?」
「いきなり何を…ってか、何で知ってるんだ」
「佐久間から聞いた。メールのやり取りを毎日してるだろ?」
「まぁ…会えない時はよくやるけど」
毎日してたっけ?普通だったから感覚がおかしい。
そう言えば、昨日は両親がいなくて家に一人だったからカップ麺で済ませたとか言ったような…?
「かなり文句を言っていた」
「へ?」
「サッカーやるのにそんな食生活で倒れたらどうするんだと」
「いや、毎日って訳じゃないし」
「他にもお前の学校での話題とか、部活の事とか…毎日聞かされるからな。俺はお前と毎日会っている感覚だ」
あぁ、だからさっき『久しぶり』って言った時に変な感じだったのか。
というか…、
「佐久間…毎日、俺の事話てんの?」
「大体が文句だけどな」
「…アイツらしいわ」
ちょっと恥ずかしい。
でも、やっぱり嬉しい。
そうやって暫く源田と話してると、人の気配がしてそちらに視線をやる。
不機嫌を顔に書いたような表情の佐久間が立っていた。ちゃんと着替えているようで良かった。
あぁ、でも何で怒ってるんだろ。
「何でまだいるんだ」
「源田と話してた」
佐久間は俺から源田へと視線を移して顔をしかめる。
「…どういうつもりだ」
「引き止めてやっていたと思って構わないぞ」
「…っ」
「?」
「半田!」
「あ?」
「部屋に戻る!」
佐久間はそう言って踵を返すとズカズカと去っていった。
「何だ?」
「追いかけてやれ」
「面倒臭い奴だなぁ…」
「半田」
「ん?」
「顔が笑ってる」
「さーくーまー」
ベッドの上に座って大きいペンギンの縫いぐるみを抱く佐久間の隣に座る。
「お前は何がしたいんだ」
「俺以外に優しくすんな」
「は?」
「お前は俺の言う事だけ聞いてれば良いんだよ!」
「どこの女王様だ、お前は」
「……何も要らない」
佐久間は鞄を手繰り寄せ、中から何か取り出した。
ラミネートカードのような……ん?
「それ…」
「…前にお前から貰った奴」
授業で作った奴だ。適当に絵を描けと言われたから、佐久間が好きなペンギンの絵を描いて、出来た奴をあげたんだ。
因みにまだ付き合ってない時。
「…もう、物は要らない。これがあれば良い…でも、お前が俺の事だけ見てるっていう証が欲しい」
だから、我が儘ばかり言って俺を試してるのか…。
「俺の言う事を聞いてくれる内は大丈夫。物より行動が欲しい」
「……佐久間」
ずっと視線を逸らして話していた佐久間がチラリと俺を見たから笑って言った。
「キスして良いか?」
「…駄目」
「そっか」
「俺がする」
「ん」
二人の間のペンギンが邪魔だけど、久しぶりに触れた佐久間の唇は相変わらずで、
「…もう一回」
「はいはい」
佐久間が我が儘を言う内は俺の事が好きで好きで堪らないってこと。
だから、最悪な恋人で良いんだ。