「緑川、シュート練習やろうぜ!」

「あ、うん」

日本代表になって数日。
円堂は俺を受け入れてくれた。他のメンバーも仲良くしてくれてる。

俺が皆にした事は許される事じゃないのに…それでも仲間として認めてくれた。

凄く感謝してるけど…やっぱり心のどこかで不安に思ってる。本当は俺を恨んでいるんじゃないか、憎んでいるんじゃないかって…




「はぁ…」

休憩中にベンチに座って溜め息。
グラウンドでは円堂と鬼道が何か話してる。


「鬼道!」


鬼道の名前を呼んだのは…

「佐久間か、どうした」

「ちょっと見学にな…練習はどうだ?」

「あぁ、良い調子だと思う。今、円堂と練習メニューの…」



佐久間…
代表選考から外れてたけど、凄い上手い奴だったような。

鬼道と話してる横顔を見ながら考える。


綺麗な顔だなぁ…

風介も綺麗な顔してるけど、アイツとはまた違うタイプの、


「…っ」

こっち見た。目が合った。

そして、


顔を背けられた。


あぁ、俺…嫌われてるんだな




佐久間は時々、訪れては鬼道達と話したり軽く練習に付き合っていたりした。
俺は佐久間が来る度に逃げるようにその場から離れた。

出来るだけ佐久間の視界に入らないように…それしか考えてなかった。




「あ、緑川もしかして部室の方に行くか?」

「うん。ボール返してくる」

「じゃあさ、佐久間に携帯届けてくれないか?ベンチに忘れてた」

「え…」

円堂から渡されたのは可愛いペンギンのストラップが付いた携帯。

「雷門の部室見学して帰るって言ってたから、まだいるかも。よろしくな」

「…分かった」



暗い気持ちで部室に向かう。

居なければ良いな、とか思いながらゆっくり扉を開けたら中に居た佐久間が俺を見る。


「あ、あのさ…」

「…何?」

「携帯…」

「携帯?」

佐久間は首を傾げる。自分が携帯を忘れた事には気付いていないみたいだ。

「これ…忘れてたって…円堂が」

そう言って携帯を差し出すと「あぁ…」と、納得して受け取った。

「悪いな」

「いや…」

ボールを籠に入れて足早に部室を出ようとしたら、



「レーゼ」

と、呼ばれた。
ビクリと大袈裟に反応して振り返る。

「違うだろ」

「えっ?」

「お前は緑川だろ」

佐久間は真っ直ぐに俺を見つめたまま言った。

「お前…嫌われるのが怖いんだろ」

「っ」

「俺はお前が前に何してようがどうでも良い…俺の目の前にいるのは今のお前なんだから」

「………」

「過去を振り返るなとは言わない…だけど、引きずるな」

「あ…」


そして、俺が籠に戻したボールを取って俺に投げてきた。胸の前でそれを受け止めると、佐久間が笑う。

「サッカーやろうぜ?」







「ありがとう」

「何が?」

帰ろうとしていた佐久間はヒロトに呼び止められ、立ち止まった。

「緑川の事…俺も気になってた」

ヒロトの言葉に佐久間は「ふんっ…」と目を細める。


「それなのに何もしてないんだな?」

「…俺は円堂くんに救われたんだよ。そして緑川を救うのは俺じゃない」

「……何が言いたい」

「さぁ?」

「………」


佐久間はヒロトを一瞥すると、背を向けて歩き出した。


「佐久間くんっ、今度お日さま園に遊びにおいで」

ヒロトの呼び掛けに佐久間が応える事はかったが、ヒロトは笑って緑川の事を想う。


良かった…緑川にも俺たちお日さま園の皆以外に大切なものができそうだ。





「ヒロトー!監督が呼んでる!」

「今行く!」



「緑川、良かったね」

「何が?」

「うーん…何か吹っ切れたって感じ?」

「ははっ、何それ?でも……うん。ちょっとだけ頑張れる気がする」


そして、今度は自分から言うんだ。


『一緒にサッカーやろう』って…






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