勘違いから始まったの続き




仮沢殴る。絶対殴る。


僕の今の格好を鏡で見れば涙が溢れそうだ。
僕は今、メイド喫茶にいた。うん。別に普通だ。僕はオタクだし、このメイド喫茶は僕たちの溜まり場みたいなものだし、問題なのは僕が客としてではなくメイドとしていることだ。

「似合う似合う」

「その棒読み何とかしろ」

自作の前に紅茶をガシャンと叩き付けるように置くと自作はニヤリと笑いながら眼鏡の位置を直す。

「メイドらしくないぞ、萌チャン♪」

「黙れ」


何で僕がこんな格好をしてるのかと言うと、今日出勤予定だった子が急病で来れなくなったとかで…女の子なんてすぐに用意出来ないし、仕方なく僕が手伝う事に。
普通にウェイターみたいな格好かと思ってたら仮沢の馬鹿が「メイド喫茶にウェイターは不要!」とか言い出してメイド服を用意しやがっ…………思い出したらまた殴りたくなってきた。

「ほら萌、新しいご主人様が来たぞ」

「チッ…お帰りなさいませ。ご主人さ…………ま」

「…………………」

「…………………」

客を迎えるために顔に張り付けた営業スマイルが凍り付いた。
なななな、

ななな何で不動さんがここに!?

「…あー、お前がこの店によくいるって聞いたから……働く側だったのか」

「ち、ちが…」

「…?」

僕と不動さんのぎこちないやり取りを自作が頬杖を付きながら不思議そうに見ている。
助けてくれよ。

「きょ、今日はたまたま…女の子が足りなくて……ただのお手伝いです」

メイド喫茶なんて不動さんは絶対に来ないと思ったから自分は行くって言っただけなのに、まさか来るなんて!しかも、このタイミングで!

「そうか…で、何だここ。飯食えるの?」

「あ、はい。席に案内しますね」

空いてる席が自作の隣の席しかない!帰れ!自作帰れ!!


「何食うか決めるから待ってろ」

「いや、私じゃなくても他のメイドさんに…」

「お前が良い」

「そ、そうですかー」

「私…?」

自作が首を傾げる。もう殺してくれ!僕を殺してくれ!




注文した料理を持っていけば「お前が作った方が美味い」と言われ、隣の自作が紅茶を吹き出し、僕は羞恥で憤死寸前。

仕事が終わる時間に迎えに来ると言って不動さんは帰っていった。



「……萌」

「…これには深い訳が」


僕が女の子に間違われてるという事情を説明すると、自作は顔を伏せてカタカタと震えている。何だよ、笑えよ。爆笑したいんだろこの眼鏡野郎が!

僕も眼鏡だけど…



「で、どうするの?」

「何が」

一頻り笑って涙目の自作が眼鏡をとって目元を拭いながら聞いてきた問いに首を傾げる。

「何がって…いつ自分が男だって言うんだ?あいつ、女のお前が好きなんだろ?」

「あ、あー…うん」


そうなのだ。
何を血迷ったのか、不動さんは僕の事が好きらしい。何度お断りしても諦めない。凄い。

「困ってるなら男だって言えば良いだろ」

「そう…だね」

そうすれば、不動さんは僕の前に現れる事もなくなる……あれ、何か嫌だ。


……………あれ?





そんなモヤモヤとした気持ちのまま仕事を済ませて外に出ると、宣言通りに不動さんがいて思わず顔が緩む。

「お前さ」

「はい?」

僕の家(実を言うと、家じゃなくて仕事場だけど)に向かう途中に不動さんが小さな声で言った。

「たまには、ああいう…女らしい格好もすれば良い」

「えっ」

メイド服の事か?普段着であんなん着れるか!
というか、女物の服なんて持ってる訳ない。

適当に笑って返してる内に家に着く。


修羅場に原稿を描く時の為に借りた部屋だから実家は別にあるけど、いつもここに居るから実質独り暮らし状態。

不動さんを実家に連れていくなんて出来るはずもないから都合が良い。


「どうぞ」

不動さんに飲み物を出しながら自作に言われた事について考えた。
いつかはバレてしまう事だし、いつまでも不毛な恋を不動さんにさせる訳にはいかないし…、


「不動さ…」

「萌」

「っ…」

名前を呼ばれ、腕を掴まれる。やばい、これはやばいパターンだ。

「ね、不動さん…話を、んっ…」

僕の言葉は不動さんからの口付けによって飲み込まれた。

「ん、ぅ…」

目をギュッと閉じる。やっぱり気持ち良い……うん、実はキスをするのは初めてじゃない。何度かやられてる。何だか断れない雰囲気を出すのが異様に上手いんだよこの人は!!


「萌…」

「不動さん、だから話を…ぅ、んーっ!」

一度離したのにまたキスされて今度はそのまま押し倒される。

やばいやばいやばい。
ちょ、今までこんな強引な事されなかったのに…

「今日…あんな格好してるお前見たらもう抑えられねぇ」

不動さんメイド萌えですか?気が合いますね…じゃなくて!

「ゃ、あの…おち、落ち着きましょう?ね?」

見上げる形の不動さんが怖い!

「落ち着いてる」

確かに見た目は落ち着いてるけども!

「でも、我慢はできない」

「ぁっ…やめ……んっ」

してー!我慢してー!
不動さんが首筋を舐める度に身体がビクリと反応するわ、変な声が出るわ…

でも、不動さんの手がシャツの中に入ってきそうになった時にハッと我に返る。

「だっ、駄目!!」

バシッと不動さんの手を押さえて進入を防げば、不機嫌そうな顔を向けられた。

「ここまできて…」

「不動さんに言わなきゃいけない事があるんです!」

「言わなきゃいけない事?」

「たぶん…」

これを言えば、

「不動さんに嫌われる…」

「はぁ?」

でも、言わなきゃ…不動さんの為だし、
それに、これで不動さんに付きまとわれる事もなくなるのに

何で…

何で不動さんの顔が見れなくなるくらい泣くかな、僕は


「…泣くなよ」

不動さんが優しく流れる涙を拭ってくれる。

「ふっ…ぅう……」

あぁ、そうだよ!好きなんだよ馬鹿!!

相手も僕を好きでいてくれてる事は分かってるのに、失恋しなきゃいけないとか酷すぎる。

「嫌いになる訳ないだろ。言えよ」


不動さんは、ゆっくりと僕を起こしてくれて向かい合う形に座ると頭を軽く叩いてきた。

「ほら」


「わ、私………いや」


ちゃんと自分を…、



「僕、実は男なんです!!」


拳を握り締めてうつむき、一気に言いきった。


「…………あ?」

あぁ、僕は殺されるかもしれない。


「ごごごっ、ごめんなさいぃっ!誤解を解くタイミングが掴めなくて…」

「…男?」

「はい」

「…………」

「…………」

長い沈黙。

目を閉じて待つ。何も言わずに部屋から出ていくか、殴られるか…どっちにしろ僕は泣く。


「…ひゃっ!?」

「…マジだ」

「ちょちょちょ、ふふふどっさ…どこ触っ…」

「あ?胸触っても、胸ない女かも知れないだろ」

「だからってソコ触ることないでしょう!」

「触るっつーか、掴む?」

「んぁっ…ちょ、離し…」

同じ男ならソコがどれだけ大事か知ってるでしょうが!!

「…で?」

「え?」

「男だから何?」

「何…って」

「ちょっとヤり方が変わるだけだ。問題ねぇ」


え?え……えぇっ!?


「いや、ちょ…」



いやああああああああっ、










「…で、結局何も変わってないと」

「ははっ、ワロス…」

「乾いた笑いだな」

自作はアイスティーを飲みながらニヤニヤと笑う。
こいつのこの顔は殴りたいな。

「付き合ってんの?」

「付き合ってないよ」

「何で?」

「僕、不動さんに好きだって言ってないし」

「小悪魔ちゃんだねー」

「うっさい」


ちょっと追われるのが好きなだけだ。



なんて、言ったら怒られるかな…?







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