「俺だ」
「またかよ!」
「辺見先輩ばっかりズルいー」
「くじ運の問題だ」
現在、帝国サッカー部は合宿中。
学園内にある宿泊施設を利用して、サッカーの特訓に励んでいた。
元から寮内で共同生活を送っているので、新鮮味には欠けるのだが、いつもと違うという点に変わりはない。
ミーティングも終わり、就寝時間までの自由な時間に成神が2年の部屋へと遊びにきていた。
トランプにも飽きた頃、成神の提案で王様ゲームをすることになって今に至る。
「つか、お前は1年部員に友達はいねーのか」
「!?」
辺見の質問に成神は驚愕の表情を浮かべて床に伏す。
そして、震える声で語りだした。
「辺見先輩は何も分かっていない…1年でレギュラー入りすると、周りから浮いてしまい、微妙に避けられ、俺には居場所がない…」
「え、あ…ごめ」
「嘘ですけどね」
パッと顔を上げてあっけらかんと言う成神を辺見は無言で殴った。
「痛い!暴力反対!鬼道さんも何か言ってくださいよ」
「揶揄うお前も悪い」
「くそぅ…鬼道さんってば、いつも辺見先輩の味方なんだ」
「…辺見。後で二人きりで話がある」
「嫌だ」
佐久間の眼光にも慣れたもので、サラリと流す辺見に鬼道は苦笑する。
「で、辺見。命令を聞こうか」
「あぁ、そうだった」
「お断りします。王様」
「何も言ってねぇ!というか、王様の命令は絶対だろうが!!」
「絶対王政はんたーい」
「はんたーい」
「どうやら国民が反乱を起こしたようだな」
「愚民共め」
辺見は王冠の印のついたくじを床に叩きつけて吐き捨てる。
「素晴らしい暴君ぶりだな」
鬼道が笑ってそう言ったのと、部屋の扉が開かれたのは殆ど同時だった。
「楽しそうだな…何をしていたんだ?」
部屋に入ってきた源田の問いに「王様ゲームです」と成神がくじを掲げて言う。
「ほぅ」
「お前もやろうぜ。はい、もう一回最初から」
「おい待て。俺の命令は」
「辺見王国は滅亡しました」
「建国僅か数分程度だったな」
「はいはい。皆さんくじを引いてー」
成神の声に再びくじが皆の手に渡る。
「…オーケィ?」
「王様だぁれだ?」
「…………」
「…………」
「………?」
誰も名乗らない。
そして、何故か源田に視線が集まる。
源田はそれに首を傾げてくじを示した。
「…俺じゃないぞ」
「いいや、お前だよ」
「我が帝国サッカー部が誇る源王だもんな」
「考えてみれば、源田先輩が入って王様ゲームなんて結果が見えてましたねぇ」
最初の内はポカンとしていた源田だが、次第に苦笑して「そうだな…それじゃあ」と腕を組む。
「一つ命令でもしてみようか」
そして、軽く笑いながら言う。
「これからも、一緒にサッカーを続けよう」
「お安い御用です、王様」
成神が恭しく頭を下げながら答え、鬼道達が笑った。
「因みに」
「本当は誰が王様のくじを引いたんだ?」
「俺ではない」
「俺じゃない」
「……………」
「え」
「うっそ、意外」
「黙れ」