机や椅子が乱雑に散らかっている教室…

その中央にはスペースが設けられそこに動く影が二つ。

一つは椅子に縛り付けられ、目隠しをされている男性。何事かを叫んでいる。その男性の前のもう一つの影…一見してみると大きなペンギンのぬいぐるみ。しかし、よく見るとゆらゆらと揺れている。まるで笑っているかのように。

そして、ペンギンの前には玩具のようなスイッチが一つ。ペンギンは身体を大きく揺らめかせ、大笑いしているかのような動きでそのスイッチを押した………。













円堂守は、とある学園の前に立っていた。

希望学園。名前だけ聞くと怪しさ満点のこの学園は政府に認められ超特権的な権力を持つ学園である。
全国から、あらゆる分野の超一流の高校生を集めて育て上げることを目的としている。
将来的に日本を支える事になるであろう生徒達である。


「でかいなぁ…」

円堂は校門の前に立ち学園を眺める。
校門一つとっても見上げるほどの高さと、細やかな装飾からこの学園が普通ではないことを物語っていた。

「まさか俺がこの学園に…」

そう、円堂は今日からこの学園に通うことになっていた。

この学園に通うことになって円堂は少し学園について調べてみた。
今年円堂と共に学園に入学する生徒は超高校級の御曹司に格闘家にプログラマー、占い師などなど…どの生徒も普通ではない特殊な生徒ばかり。中には情報がヒットしない生徒も数名いたが、その中の一人が円堂だ。

「俺…普通だしな」

何故、平凡な家庭の平凡な少年がこの超が付く特殊な学園に入学することになったのかと言うと、それは円堂の家に届けられた1通の手紙が理由だ。




【円堂守殿。あなたは抽選の結果選ばれた「超高校級の幸運」として希望学園への入学を許可します】


冗談のような話だが、事実である。


「新入生は8時に玄関ホールに集合…か」

入学通知書に視線を落とした円堂はそう呟いて歩き出す。

「少し時間が早いけど中に入るか」




玄関ホールについたが誰もいない。
設置されている時計を見ると7時10分。時間まであと50分もある。

「んー。時間もあるし、ちょっと学園の中を探検しても良いかなぁ」円堂は誰に許可を得るでもないが、そう言って足を一歩踏み出した。


その瞬間。


「あ…れ?」

歪む視界。ぐらぐらする頭の中、

「なん……」

そして、暗闇。








「ん…」

ふと、目を覚ます。

「あれ?」

周りを見回すと、どうやら教室のようだ。自分のほかには誰もいない。
円堂は机にうつ伏せるようにして眠っていたようだ。

「何だ?」

机の上に紙が置かれている。
それを取って見ると手がきで【入学案内】と書かれていた。


【入学おめでとうございます。今日からこの学園の中がオマエラの新しい世界となります】


「何だ、これ…ん?」

ここにきて違和感に気づいた円堂は改めて教室内を見回した。


「……は?」

教室の窓があるべき場所は分厚い鉄板で打ち付けられ、外が見えない。さらに天井から監視カメラのようなものが吊るされている。

「…あ、8時過ぎてる!」

教室内にある時計に目を向けると8時を過ぎている。
つまり円堂は1時間ほど眠っていたことになる。

「たぶん、玄関ホールで立ちくらみで倒れた俺を誰かが運んでくれたんだろうな…時間過ぎてるし玄関ホールに行かなきゃ」




円堂が再び玄関ホールに行くと、そこには先客が居た。

超高校級の生徒たち…。


「あ、君も新入生?」

猫耳の帽子を被ったフレンドリーな少年が円堂に話しかけてきた。

「おぉ…って、ことはお前らも?」

「うん…私達、みんな新入生なんだけど…」

腰の辺りまでの長さの金髪を、首を傾げることでサラリと揺らせながら少女がすこし困った様な表情で呟いた。

「これで15人ですか…キリが良いですし、きっとこれで全員ですね」

神経質そうな眼鏡の少年がそう言うと、円堂は慌てて謝った。

「ごめん。俺、円堂守っていうんだけど、なんかいつの間にか寝ちゃってたみたいで、それで遅刻して…」

「え、お前も?」

そう言うのは右目を眼帯で隠している中性的な見た目の少年。その側にいた褐色の肌の少女が「何や、ますます妙なことになってんで」とため息をついた。

「むむむ。僕が思うにこれは異常事態ですね!」

先ほどの眼鏡の少年が強張った表情で言ったところで円堂も異変に気づく。

「何だ?どうかし…」

「その前に!」

円堂の言葉が終わる前に大きな声で遮ったのはウェーブがかった髪を一つにまとめた気難しげな少年。

「円堂!遅刻とは何事だ。8時集合と決まっていただろうが」

「で、でもしょうがないですよ…こんな状況ですし」

黒髪の少女がそう言うと「あ、そうだ!」と、声を上げて注目を集める緑髪のポニーテールの少年。

「ねぇ、改めて自己紹介しない?遅れてきたクラスメイトのためにもさ」

「そう…だな」

腕組みをした落ち着いた風貌の少年がそう言うと、先ほどの関西弁の少女も頷く。

「せやな、これからの問題を話し合うためにもお互いの素性は知っておいた方がええな」

「そうだね…」

金髪の少女が頷く横で、茶髪のウェーブがかった髪の少女が「では、まずは自己紹介をしてから話し合うということでよろしくて?」と皆の了解をとる。


ある程度は新入生について事前に調べてきた円堂だが、実際に話をしてみる方がよく分かるだろう。

他の生徒たちも異議はないようで、まずはお互いの自己紹介をすることとなった。




円堂はまず、茶髪の少女に挨拶をする。


「雷門夏未よ…よろしく」

そう言って軽く微笑むのは超高校級のアイドルとして、日本では知らない人がいないであろう有名人だ。
しかし、円堂が夏未を知っている理由はそれだけではない。夏未の方は覚えていないかもしれないが…



トップアイドルグループのセンターを務める彼女は従来の愛想ばかりのアイドルとは違い、ツンデレアイドルとして人気を呼んでいる。

ツンデレ…よく分からないけど、

円堂が内心で首を傾げていると突然夏未が口を開いた。


「周りが勝手にツンデレだとか何とか言っているだけよ」

「え!?」

「……私、エスパーなの」

「は?」

「冗談。ただの勘よ」

「そ、そうか…」

円堂が戸惑っているのを見ていた夏未が「ねぇ、円堂くんってもしかして…」と何事かを言いかけたとき、

「お前らはいつまで長話をしているんだ。自己紹介だけで貴重な一日を潰すつもりか」

と遮られた。


「あ、悪い…えっと」

「私の名前は砂木沼治だ。これからの学園生活、お互いに切磋琢磨。学業に励もう」

「お…おぉ」

砂木沼治。
確か、超高校級の風紀委員。常に成績優秀。何よりも規律を重んじるかなりの優等生だとかなんだとか…

苦手なタイプかも、



「えぇ…と、ん?」

少し離れたところに自信なさげにポツンと立っている少年に声をかける。少年はビクリとして「あ、あ…こんにちわ」と微笑んだ。


「えっと…僕、吹雪士郎。よろしくね」

吹雪士郎。
超高校級の文学少年。この歳にして数々の賞を取っている凄い小説家らしい。

あまり本は読まないからよく分からないけど、



「……何?」

「へ?」

「僕…そんな、あまり…見ないで」

「あ、ごめん」

「…ドキドキしちゃう」

「へ?」

「ふふふっ、冗談だよ」


不思議な感じの少年だ…。







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