ふと携帯に目をやると着信を報せるランプが点滅していた。
辺見は「どうせアイツだろうな…」などと思いながら教科書を鞄にしまって帰る支度を整えてから携帯を開く。
すると案の定、辺見が思い浮かべた人物からのメールが届いていて…しかし、その内容に首を傾げる。



『学校終わったら部室に来いよ!』



部室、というと辺見にとってはもちろんサッカー部の部室なのだがそれは帝国サッカー部の部室を指す。
しかし、このメールの送り主にとって部室と言えば…


返信のボタンを押し「分かった」とだけ返す。
アイツは言葉は足りないが、何となく通じるのでまぁ良しとする。






「えぇ…と」

雷門中に来たのは良いが、部室の場所が分からない。
帝国の制服は雷門では浮きまくりだ。先程から数人の生徒にチラチラと見られているのが居たたまれない。


「あの…」

とりあえず目が合った生徒に話しかける。相手はビクッと肩を震わせ「ななな何ですか」と怯えた視線を向けてくる。

だから話しかけたくないんだよ、


己の見た目が友好的ではないという事を自覚している辺見は内心で溜め息をつきながらサッカー部室の場所を尋ねた。


「え…サッカー部?…は、向こうの校舎の入口に向かって左に曲がってまっすぐ行けば着く…です」


想定外の質問に素で答えた生徒だったが、すぐに無理やり敬語に戻す。


「ありがとう」

辺見は軽く礼を言って教えられた通りにサッカー部室へと向かった。


「とって食いやしないっての…」


何だよ、笑顔で話しかければ良いのかよ、


そう思うが、笑顔は苦手だ。いつもニコニコしていられる成神など不思議でならない。




「…ここか」


手書きで『サッカー部』と書かれた木の板が掲げられている部室の前についた辺見は一瞬迷った後に、その扉を叩いた。


すると中から「入って良いぞ」という返事が返ってきたので、扉を開けて中に入る事にする。


「失礼しま…うわぁっ!!」


扉を開くと同時に視界いっぱいに黄色い物体が迫ってきた。よく見れば顔がついている…


「ジャックランタン…?」

辺見の言葉に応えるようにソレが下に下ろされ、持っていた円堂の笑顔が見えた。


「凄いだろ?出来立てだぞ!」

部室の一ヶ所にカボチャの中身であろうモノが山積みになっているのを見て「へぇ…」と返す。

「しかし、デカイなそれ」

「一之瀬から貰ったんだ。アメリカの知り合いが送ってきたって」


部室の中に入り、しゃがみこんで床に置かれた両手で抱える程のジャックランタンを軽く叩く辺見の側に座った円堂は「せっかくだし、ジャックランタン作ろうと…んで、お前に見せようと思って」と、ニコニコ笑う。


「…お前もいつも笑顔だよな」

「?」

「笑うの苦手だからさ」

「誰が?」

「俺が」

「…?辺見はいつも笑ってるだろ」

「へ?」


円堂の言葉に辺見はキョトンと首を傾げる。

「笑ってる?俺が?」

「うん。すげぇ可愛い」

「かわっ…それはきっと幻だ。しっかりしろ」

「そうかなぁ?」

「そうだ」

「うーん、あ」

納得していない様子の円堂だったが、ふと思い出したように近くにあった鞄を引き寄せて中身を探る。


「あった。ほら」

「何…飴?」

「トリックオアトリート!」

「いや、言う側のお前が菓子あげてどうする」

「あ、そうか」

「馬鹿だな」

「あ、ほら笑った」

「えっ」

「やっぱり可愛い。幻じゃない」

「…っ、ほんと馬鹿」


紅く染まった頬を見られまいと、俯いて飴の包装をゆっくり剥がす。

そしてそのままジャックランタンの表情を睨み付けながら飴を口にした。


「美味しい?」

「…すんげぇ、甘い」

「辺見」

「何」

「トリックオアトリート」

「はぁ?俺、菓子なんて持ってきてな……んっ」




「じゃあ、悪戯」

「……飴まで持っていってんじゃねぇか」

「ほんと甘いな、コレ」

「しかも文句まで言う」

「じゃあ、返そうか?」

「要らん」



口の中に仄かに残る密の味に、辺見は「らしくない…」と思いながらも幸せな気分になる自分に悪い気はしなかった…。





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