染岡がボールを上げるがすぐに鬼道に奪われる。成神が奪い返しに向かってくるが…
「ジャッジスルー！！」
「うわあぁっ！！」
「成神！！」
通常よりも強く弾き飛ばされた成神に佐久間が駆け寄る。
「大、丈夫です…それよりボールを！」
成神はどこか痛めたのか、よろけながら立ち上がった。
佐久間は頷き、すぐに鬼道の後を追う。
「随分と乱暴なプレイをするようになったな」
「元々はこういうプレイスタイルだったんだ」
「それは意外…フレイムダンス！」
一ノ瀬は鬼道からボールを奪うことは出来なかったが、弾くことには成功した。
「…やるな」
「ボールはまだ生きてるぞ！砂木沼！！」
ボールの一番近くにいた砂木沼の名前を叫ぶ。砂木沼もボールを追うが少し先には豪炎寺が、
「ヒートタックル！」
「！？」
砂木沼を簡単に吹き飛ばし、そのまま上がる。
「何…だ？」
立向居は違和感を覚える。さっきまでとプレイスタイルが全然違う。
かなり乱暴になってきて…
「……そうか」
アフロディが気付く。
「気をつけろ！！彼らは君達を潰すつもりだ！！」
「！！？」
全体を見ていたアフロディが気づいて叫んだ時には、既に数名が身体のどこかしらを痛めていた。
「そんな…」
立向居は周りを見回す。
そう言えば、さっきから豪炎寺達はシュートを打ってきていない。何度もチャンスはあった筈なのに、あえてフィールドでパスを回してそれを奪いにきた選手に危ないプレイをしかけている。
気が付けば殆どの選手が息も絶え絶えにボールを追っていた。
立向居は円堂を見る。
いくら変わってしまったとは言え、円堂がこのようなプレイを許すなど…
しかし、立向居の想いも虚しく…円堂はただ無表情にゴール前から動かない。
「違う…」
知らず、口を開いていた。
「こんなの…違う」
「…？」
ちょうど、カイの足元にボールが来た時にカイが立向居の異変に気付く。
「何が違うの？」
「こんなのサッカーじゃない…相手を傷つけて、一方的な気持ちで、こんなの…違う」
「分からない子だね、君は」
カイは苛立たし気にボールを蹴り上げた。
「これが格の違いってやつなんだよ」
そしてボールが落ちてくる…、
「インビジブルライン」
見えなければ、聞けば良い…
立向居は瞳を閉じた。
耳を澄ませる。風の音…ボールが風を切って向かってくる音、
− ヒュンッ
聞こえた！
「ムゲンザハンドォオオッ！！」
「！！？」
「…あ」
佐久間が声を出す。
「取っ…た」
立向居は確かに、両手でボールをしっかりと受け止めていた。
「馬鹿な…」
カイが目を見開く…
そんな馬鹿な事があるものか、シュートを止められるなんて
「こんなのはサッカーじゃない…こんなの」
カイの動揺など意にも介さず、立向居は振り絞るように叫んだ。
「俺が憧れた円堂さんのサッカーじゃない！！！」
「！！？」
円堂の目が一瞬だけ揺らぐ、風丸もまた息を飲んだ…他のメンバーにも僅かに動揺が走る。
そんな中、立向居だけがしっかりと前を見据えていた…。