「通さないよ」
「………」
上がってくる染岡の前に吹雪と風丸が立ち塞がる。二人掛かりではさすがの染岡も突破する事はできないだろう。
しかし、
「…へっ」
染岡はニヤリと笑う。
「俺は今MFなんでね…シュートを打つのは俺の役目じゃない。俺はボールを繋げるのが仕事なんだ……ヒロト!!」
「何っ!?」
吹雪達とぶつかり合う寸前に染岡が背中を向けて、上がってきていたヒロトへバックパスをする。
「砂木沼!!風介!!」
ヒロトの声に二人が構える。
三人からゴールまでブロックできる者はいない。
「スーパーノヴァ!!!」
放たれたシュートがゴールへとまっすぐに伸びる。円堂もまた、シュートを打つのは染岡だと思っていた。苦笑しつつ舌打ちをする。今までは軽く止めていたがさすがにこれは無理だろう。
仕方ない。
「イジゲンザハンド!!」
想定外に、必殺技を使うことになってしまった。
ヒロトの放ったシュートは大きくゴールから逸れてネットを揺らす事はなかった。
「くそっ…」
もう少しだったのに、
染岡が悔しそうにしていると、円堂が笑う。
「今のは凄かった」
「!」
一瞬だけ、今までの円堂の様な気がしたが…笑う円堂はどこまでも暗い。
「染岡をMFに下げたのはシュートを打たせるための囮だと思っていたが、逆にそう思わせる事が狙いか」
最初はヒロトに打たせるものだと思わせ、染岡にパスを回す。すると、当然染岡がシュートを打ってくるものだと思う。
さらに、本来ならば吹雪一人でも止められたものを円堂の「もうシュートを打たせるな」という暗黙の指示を守るために念入りに染岡にマークをつけてしまったために染岡以外のFWへのマークが疎かになってしまっていた。
そこまで計算された作戦だったのだろう。
「数手先を読まれていたようだな…」
鬼道も頷く。
「だが、同じ手はもう通じないぞ」
「………」
その通りだ…。
アフロディは少しだけ眉根を寄せる。
この作戦は一度使えば次はすぐに対策を立てられてしまう作戦。だからこそここで1点でも決めていられたら流れを変える事につながるかと思っていたのだが。
円堂が今まで殆ど必殺技を使わないでシュートを止めていた事、あの場面で必殺技を使わないはずがないという事は変えようがない事実だ。
「………」
緑川は殆ど動く事が出来ずにいた。
俺は…、何で、
「選手交代よ」
突然、瞳子が声を上げた。アフロディは「え?」と瞳子へと視線を向ける。選手交代とは言っても向こうには控えの選手などいないのに一体誰と誰を代えると言うのか。
「緑川君、貴方は下がりなさい」
「…っ」
「今の貴方はチームの迷惑になるわ」
「姉さん!そんな言い方…」
「あら、それを証明してくれたのはヒロト。貴方でしょ?」
「!」
「そして緑川君の代わりに…」
「僕が出るよ」
「なっ…」
「カイ?」
「あいつ…選手だったのか」
一ノ瀬や佐久間は驚いてユニフォームに着替えて緑川と入れ違いでフィールドに入るカイを見る。
すると、晴矢が下がった。
「何…?」
「……FWなのか?」
カイが晴矢のポジションに入り、晴矢は緑川のポジションに入る。
「さぁ、始めようか」
「晴矢や豪炎寺君達と違って、俺達は彼のプレイスタイルを知らない…厄介だな」
「砂木沼、調べてきた資料にはアイツのプレイの事は書いていなかったのか」
「いや、プレイスタイルどころか…兄の方もサッカー選手だったという記述はどこにもなかった」
「…少し警戒した方がよさそうだね。砂木沼」
「あぁ」
ヒロトと砂木沼はMFに下がり、再び染岡をFWへと返す。
「あいつがどんなFWだろうと関係ない…全力を出せばいいんだ」
「そうだな」
成神の言葉に佐久間が頷き、フィディオが微笑む。
そうだ…どんな敵が相手だろうと仲間と共に今までもこれからも戦っていく。絶対に諦めない。
「よしっ」
立向居は両手の掌で軽くパンッと頬を挟む様に叩く。
円堂さんが教えてくれた…それが、俺達のサッカーだ。