「アトミックフレア!」
シュートが決まり、テレスと飛鷹が無言で悔しがるのを晴矢は鼻で笑う。
「まだだ!まだ試合は終わっていない!」
佐久間の言葉に頷き、自らのポジションに戻る選手たち。
「ちょっと待って」
再び試合を始めようとしたが、アフロディの制止に皆の視線がアフロディに集まる。
「選手交代だ」
「え?」
「砂木沼君、僕と代わってくれるかい?」
「それは構わないが…」
「どうした、怪我でもしたのか?」
表情を曇らせる風介に「いや…」と答える。
「僕に考えがあるんだ」
「……まずいわね」
「?」
アフロディが砂木沼と代わり、何やら選手達に指示を出しているのを見た瞳子が呟く。
「どういう事?」
カイの問い掛けに答えているのか独り言なのか分からない口調で言う。
「彼は気付いたのかも知れないわ…此方がまだ完璧ではないという事に」
瞳子は少し黙った後にカイの名を呼ぶ。
「準備した方が良さそうよ」
「……………そう」
瞳子の言葉に表情をなくしたカイは胸元に手を当てる。
「僕らはいつも一緒だから…大丈夫」
「フォーメーションを変えてきた…?」
辺見は訝しむ様に雷門チームのフォーメーションを見回す。
アフロディの代わりに砂木沼がFWに入り、今までFWだった染岡がMFに下がって代わりにヒロトがFWに上がった。
「染岡がMF…だと?」
鬼道は「何を考えているんだ…?」とベンチに下がったアフロディを見た。
その様子に晴矢が舌打ちして鬼道の視線を追う。
妙に勘の良い奴だからな…気付いたんだろう
アフロディ同様、晴矢もまた“ある事”に気が付いていた。
瞳子のいう”完璧ではないという事“
だから、言ったんだよあの馬鹿…
晴矢だからこそ気付いた…忠告もした。しかし、どうすることも出来ない。それが弱さというものだ。
「クソが…」
試合が始まる。風介が上げヒロト、砂木沼は風介の近くに走る。
照美の言う事は本当だろうか、
『僕の考えが正しいなら彼の弱点は君達だ』
『彼はまだ心の底で悩んでるんだよ、君達と戦う事に』
『特にヒロト君…君が鍵だよ。彼の感情を利用するようで申し訳ないけど今はそう言っていられる状況じゃない』
風介はある程度上げたボールをヒロトへと回す。ヒロトの前には緑川がいた。
緑川は正面からヒロトと対峙する形になって少し戸惑っている様子を見せる。それにいち早く気づいた晴矢がフォローに向かおうとするが、それを見越していた風介と砂木沼に防がれてしまう。
「どけ」
「南雲…これがお前の望んでいるサッカーなのか?」
「お前たちには関係ないだろ」
「関係ない…だと?」
風介は手を大きく振り、周りを示して「これが!」と叫ぶ。
「これがお前のサッカーなのか!?お前のサッカーはこんなにも落ちぶれてしまったのか!!私がお前と共にサッカーを続けてきたのはお前のサッカーを認めていたからだ!!照美が私たちを誘ってくれたのも私たちのサッカーを認めたからではないのか!?」
「黙れ!!」
「晴矢…っ」
もう何を言っても駄目なのか、届かないのか…
風介はただ歯を食いしばることしか出来なかった。
聞こえてきた晴矢の怒鳴り声に緑川がビクリと震えて一瞬だけそちらに視線を向けた。しかしすぐにヒロトに戻すと静かに言う。
「ヒロト…ボールを頂戴」
「駄目だよ、緑川」
「お願い。手荒なことはしたくない」
「うん」
「ヒロト…」
「ねぇ、緑川…また一緒に練習をしようか」
「え?」
ヒロトの言っている事が理解できずに緑川の緊張が一瞬解けた。
「一緒に練習してさ、砂木沼からの差し入れで喜んで、家に帰ったら姉さんが作った晩御飯を食べる…そんな日常を取り戻そう」
「や…めろ」
「俺達…家族だろう?」
「やめろぉおおおっ!!」
力ずくでボールを奪いにきた緑川だが、冷静さに欠けているためか軽くかわされてしまう。
「染岡くん!!」
そこにタイミングを見計らっていた染岡が一気に上がり、ヒロトからボールを受け取る。
「しまった!」
「くそっ…」
てっきりヒロトがそのまま上がってくるものだと思っていた鬼道や豪炎寺は反応が遅れた。
緑川がボール奪取に失敗するとは思っていなかったエドガーや辺見はある程度上がってしまっていたために下がるのも間に合わない。
「一本取られたなぁ…」
だんだんゴールに近づいてくる染岡を見ながら円堂が笑いながら小さく呟いた。
染岡をMFに下げたのは囮だったのか…
「………」
アフロディは一連の動きを見て目を細める。
まだだ…シュートを打つまで持っていかないとこの作戦は成功とは言えない。
そう、シュートを打つまで…。