「うわ、見てこれ…バーンがずっこけて大泣きしてる写真。かーわいー」
「てめぇは何でそんなもんを持ち込んでるんだ!」
「えー、だってジェネシスは俺で決まったのに二人が異議を申し立てるもんだからこんな面倒な事になったんだよ?」
「早く終わらせたいなら真面目に話し合う姿勢を見せろ」
星の使徒本部。
とある部屋に集まったのはマスターランクチームのキャプテン達。
グラン率いるガイアがジェネシスに決まり、ガゼルとバーンがそれを不服として話し合いの場を設けるように要求した。
二人に引きずられるように参加したグランは、やる気を全く見せずに持ち込んだアルバムに目を通している。
そして、視線を上げる事なく独り言のように呟いた。
「父さんの決定に逆らうの?」
「…っ」
グランのその一言の効果は絶大で、二人は怒りに顔を歪ませながらも黙る。
「…必ず、必ずお前を倒してやる!」
ガゼルはバンッと机を叩きつけて部屋を出ていった。
「あらら、話し合いをするんじゃなかったの?…ねぇ、晴矢」
「お前が煽るからだろ、それにその名前で呼ぶな」
「照れてるの?」
「怒ってるんだよ!察しろよ!」
バーンは「もうやだ…頭痛い」と机に顔を伏せた。
「それは大変だ。看病してあげようか?ベッドに行く?」
「お前死ねよ」
伏せたままのバーンの声は籠っていて聞き取りづらかったが、グランの耳にはしっかりと届いていて笑う。
「俺が死んだら泣くくせに」
「そうだな、嬉し泣きくらいはしてしまうかもしれん」
顔を上げたバーンは「ハッ…」と鼻でわらってグランから顔を背けた。
「ねぇ、バーン」
「…んだよ、」
少しの沈黙の後に名前を呼ばれて返事を返せば、グランの笑いを含んだ声が聞こえてくる。
「俺のこと好き?」
「…嫌い」
「本当に?」
「何が言いたいんだお前は!」
思わず立ち上がってグランを睨み付ける。
しかし、そのグランの表情を見た途端に狼狽えてしまった。
グランがとても悲しそうな表情をしていたから…、
「なん…だよ」
小さく呟くと、グランが口を開いた。
「バーンは俺がキスをしても、抱いても、受け入れてくれるでしょ?…父さんは、俺が“ヒロト”に似てるから俺のことが好きなんだ。バーンが俺を俺として好きになってくれたら…嬉しい」
「………」
「あ、じゃあさ。一緒に言おう」
「は?」
「お互いに、相手をどう思ってるか…せーので言い合おうよ。公平に」
「……」
「いくよ?…せーのっ」
「好きっ…」
「バッカルコーン」
「………………は?」
バーンの目の前には机を叩きつけながら爆笑しているグラン。
そして気付く。
己が騙されたのだと。
「てんめぇっ!!ふざけんな!!何が公平だ!!つか、バッカルコーンって何だ!?」
グランの胸ぐらを掴んで真っ赤な顔で叫ぶバーンに、グランは笑いすぎて涙目になった目を擦りながら言う。
「前にガゼルが飼ってるクリオネがバッカルコーンを出したって、珍しく興奮しながら話してるのを思い出してしまって思わず口から出たんだよ」
「あの場面でそんな事思い出す訳ねぇだろうが!そして結局バッカルコーンが何なのか分かんねぇよ!」
「思い出しちゃったもんは仕方ないじゃない」
ギャンギャン喚くバーンをケラケラ笑っていなしながらグランは満足していた。
なんて可愛い奴なんだろう。
こんなに可愛い相手には、絶対に好きだなんて言ってあげない。