アメリカでの事故の後、日本に帰国してからも入退院を繰り返してた。

こんなんじゃ、土門や秋に顔向け出来ない。
俺はもっと強くならなきゃ、今まで以上に。


何度目かの入院生活で看護師が話しているのが聞こえてきた。


「夕香ちゃんの具合はどう?」

「相変わらずね…修也君も心配しているみたい」

「責任を感じてるのね…自分のサッカーの試合の応援に来る途中で事故に遇ったなんて」

「それでサッカーをやめちゃったらしいし」



「…………」

遠ざかっていく看護師達の声を聞きながら考える。


修也…サッカー……

もしかして、木戸川の?


木戸川の豪炎寺修也は有名なストライカーだ。
サッカーをやめたらしいとは聞いてたけど、こんな理由があったなんて、


俺は夕香ちゃんの病室を調べて足を運んでみた。

静かな部屋で女の子が一人、眠っていた。
事故以来、一度も目覚めていないらしい。

ベッドの横に腰掛けて話しかける。


「こんにちは、俺は一之瀬一哉。夕香ちゃんのお兄ちゃんはサッカーの選手なんだって?俺もね、サッカーやってるんだけど…いや、やってたんだけど、今は出来ないんだ」


もちろん返事が返ってくる訳ない。それでも俺は話し続けた。
時々、夕香ちゃんの病室に行っては何でもない話をするのが日課になっていた。


それから暫くして、豪炎寺がサッカーに復帰したと聞いた。
病院でたまに見かけていたけど、見る度に顔付きが変わっていくのに他人事ながら嬉しく感じていた。


良かった…アイツは立ち直ったんだな、



その時には薄々、気付いてたんだ…
自分が豪炎寺に惹かれ始めてるって、




俺もまた、サッカーを出来るまでに回復して雷門イレブンの仲間になった。
そこで初めて豪炎寺ときちんと対面した。


「良かったな」

「…?何の話だ?」

「何でもない」

豪炎寺は俺の事は知らないだろうし、それ以上は何も言わなかった。




フットボールフロンティアに優勝して、俺達の日常も普段通りになりつつあった。

ある日、西垣に会う為に土門と一緒に木戸川に向かっていると、突然大きな轟音と共に周りが騒ぎ始めた。

「雷門中の方に何か隕石みたいなのが落ちたぞ!」

「一体何が…」


「!?」

「な…」

土門も声を失っている。
雷門中の方向…病院はすぐ近くに、


「夕香ちゃん!?」

俺は思わず駆け出した。俺の名前を呼ぶ土門に叫ぶ。

「先に木戸川に行って、西垣にこの事を伝えてくれ!」




病院は見た目はどうやら無事っぽいけど、夕香ちゃんは…?

俺は病室に入りかけてすぐに隠れた。中に豪炎寺がいたからだ。
考えてみれば当たり前だ。夕香ちゃんは豪炎寺の妹なんだし…


でも、良かった…無事みたいで
それに………夕香ちゃん、意識が戻ってたみたいだ。


病室から二人の会話が聞こえる。

「大丈夫だ、夕香…お兄ちゃんが守るからな」

「うん。お兄ちゃんの声はちゃんと聞こえてたよ」

「そうか」

「それと、知らないお兄ちゃんの声も」

「知らないお兄ちゃんの声?」

夕香ちゃんの言葉にドキリとした。

恐る恐る病室を覗くと、豪炎寺はこちらに背中を向けていたから表情は分からないが夕香ちゃんは笑っていた。

「うん。ずっと夕香に『大丈夫だよ』って言ってくれてたの。『夕香ちゃんも、夕香ちゃんのお兄ちゃんも大丈夫』って…『俺も諦めないからね』って。そのお兄ちゃんは大丈夫かなぁ?」

「そうか…」


「…っ」


届いてたんだ…俺の声、

何故か泣きそうになって慌ててその場を離れた。





それから、雷門中や木戸川、日本中の中学校を襲撃して回っているのがエイリア学園と名乗る奴らだと分かった。

そして、俺達は旅に出る事になる。



俺は旅に出る前に検査の為に病院を訪れていた。
庭に車椅子に乗った夕香ちゃんを見付けて近付く。


「こんにちは、良い天気だね」

「こんにちは!」

夕香ちゃんは俺の顔をまじまじと見つめた後に首を傾げた。

「お兄ちゃん…前に会った事ある?」

「…いや、初めてだよ」

「ふぅん…」

「でも、夕香ちゃんのお兄ちゃんと同じサッカーチームなんだ」

「えっ、本当にっ?」

「うん」


それから少し話して俺が帰ろうとしたら夕香ちゃんに呼び止められた。


「大丈夫だよ!」

「え…?」

「…あれ?何が大丈夫って思ったのかな?分かんないや」

「…ありがとう」

俺がお礼を言ってもよく分からなかったらしく、夕香ちゃんは困ったような笑顔で俺を見送った。



「…知らないお兄ちゃんってお前か」

「…人のデートを覗き見るなんて趣味悪いな」

声をかけられるまで豪炎寺の存在に気付かなかった。

「夕香とデートなんてして、覚悟は出来てるんだろうな」

「冗談言えるようになったんだな、お前」

ケラケラ笑うと、豪炎寺が「…ありがとな」なんて急に真剣になるもんだから気恥ずかしくなって顔が熱くなったのが分かった。


「やめろよ、馬鹿」


豪炎寺は「ふっ…」と笑って夕香ちゃんの所に行こうとする。それを呼び止めて言った。


「エイリアの奴らの事が片付いたら…」

「?」

「………あ、やっぱり…その時に言う」


「…?あぁ」






小さな女の子に奇跡が起きた…。
そして、その子が「大丈夫」だと、そう言ったから、


この戦いが終わったら、


その時は…、










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