「…何してるんだ?」
樹の影からグラウンドを覗いて携帯を構えているヒロトを見付けた風丸が若干引き気味に問えばヒロトは「えへへー」とにんまり笑う。
「ストーカーごっこ」
ヒロトは一度、風丸に向けた視線をすぐにグラウンドに戻し、携帯のカメラ機能をフル活用している。
「あぁ、円堂くん…相変わらず今日も輝いてるね素晴らしい、あの腕に抱き締められたい…」
お前はごっこではなく、本物のストーカーだ、
風丸は嫌な物を見る目でヒロトを見る。
「…お前、心底気持ち悪いな」
「誉め言葉として受け取っておくね」
「円堂に手を出したらぶっ飛ばすからな」
「君って中身が見た目を裏切ってるよね」
「おーい、風丸!ヒロト!何してるんだよ、サッカーやろうぜ」
「王子様が呼んでる♪」
「そのままメルヘンの世界に飛び立て」
二人は遠くの円堂に手を上げて返事をすると、グラウンドに向かって歩きだした。
ヒロトと風丸は端から見て仲が良いとは決して言えない。
ヒロトの言動に風丸は辟易しているし、風丸の冷たい視線や言葉にヒロトはどうしたものか、と悩んでいる。
どちらとも仲の良い緑川などは時たま板挟み状態になってキリキリと痛む胃に溜め息の日々だ。
「…二人とも、もうちょっと仲良く出来ない?」
「別に仲悪くないだろ、俺達」
「そうだよ、緑川は気にしすぎだよ」
「…はぁ」
お互いに無自覚なのが余計にタチが悪い。
ギスギスした関係は嫌だ。
緑川は考えた末に円堂に相談する事にした。
キャプテンだし、ヒロトも風丸も円堂の事は大好きみたいだし…円堂の言うことならおとなしく聞いてくれるかもしれない。
「…と、いう訳なんだけど」
緑川から話を聞いた円堂は首を傾げる。
「ヒロトと風丸は仲良いと思うぞ?」
「…は?」
何を言っているんだ、この男は、
緑川は本気でそう思った。
「でもなぁ、皆気付いてないんだよなぁ…」
円堂がそう言いながら視線を送る先を追うと豪炎寺と風丸が話しているのが見える。
風丸は時折、笑顔を見せていたがそこにどこから現れたのか、ヒロトが加わると途端に顔をしかめる。
「…風丸が嫌がってるようにしか見えないんだけど」
緑川が白けた表情でそう言えば、円堂が喉の奥で笑った。
「俺と風丸って幼馴染みなんだ」
「?」
「風丸の性格は他の奴らより知ってる。好きな物を素直に好きだって言えないんだよ。自覚、無自覚関係なくな。ヒロトの性格は…お前がよく知ってると思うけど?」
「ヒロトの性格…?」
ヒロトは昔から何かを欲しがるような子供ではなかった。
誰かと仲良く遊ぶ、というのも苦手だったのだろう。友達との付き合い方も、普段は優しいのだが気に入った相手には本人は無自覚でちょっかいをかけて反応を楽しむようなムカつく性格で………
「…あ」
「子供なんだよ、アイツら」
「なるほど」
「お互いに相手が自分以外の誰かと仲良くしているのを見たくないだけ」
ボールを抱えて「ははっ」と笑いながら、苦虫を噛み潰したような風丸と楽しくて仕方ないようなヒロト、その間に挟まれて呆れ顔の豪炎寺を見ている円堂に緑川は内心で驚いていた。
何だかんだ言ってもやっぱりキャプテンなんだな、
「うざいよ、お前」
「風丸くん…怒ってばかりだと禿げるよ?」
「黙れ」
「…二人ともさぁ、いい加減に気付いたら?」
「…?」
「何に?」
「はぁ…」
「何の事を言ってるか分からないけど」
「あぁ」
『気付いたら負けな気がする』