「良いかレーゼ。我らエイリアに負けは許されない」

「はい、ガゼル様…お任せください」



片膝を付いて頭を垂れ、ガゼルに答えるレーゼを無言で見下ろす。

部屋を出る為に顔を上げたレーゼが一瞬だけ俺を見た。
それはほんの一瞬で、もしかしたら俺の勘違いかもしれない。



「大丈夫、レーゼなら上手くやってくれるよ」

今まで何も言わなかったグランが貼り付けたかのような笑顔で「そうでしょ?」と、圧力をかける。

思わず舌打ちをしたが、気付いたのはガゼルだけのようで咎めるような視線を俺に向けた。

レーゼはグランの言葉に一瞬だけビクリと震えて「勿論です…」と答えた。





「本当に可愛いなぁ、レーゼは」

レーゼが居なくなった後にグランがクスクスと笑うとガゼルが「悪趣味な」と吐き捨てるように言った。

「君と言っていた事は大して変わらないと思うけど…ねぇ?バーン」

「…知るか」

別にコイツらと話す事はない。
先に部屋を出て自室に向かう。途中でレーゼが立ち尽くしているのを見付けた。

俺には気付いていないようで、ぶつぶつと何か呟いている。

少し近付くと何と言っているか聞き取る事ができた。



「大丈夫…俺は大丈夫、負けない……負けられない…負けたら………嫌だ、それだけは絶対に嫌だ…俺は、」

「…レーゼ」

「!?」

レーゼは目を見開いて俺を見る。


「ぁ…はる、っ………バーン様…気付かずに、申し訳ありません」

「…大丈夫か」

「大丈夫です。私達ジェミニストームにお任せください」

「いや、そういう意味じゃない」

「?」

「…何でもない」


こいつは昔から追い詰められるのに弱かった。
すぐ泣くし、自分を責める。相手が悪くても文句を言うことなんて出来ない奴だった。


「レーゼ」

「はい」

「…負けるな」

「……はい」

命令、ではなく…お願いだから
負けないでくれ、






「ジェミニストームが…負けた?」

ガゼルからの報告に頭が真っ白になる。

「グランからの知らせだ…間違いない。ジェミニは追放される」

「…………」

「デザームが連れ帰った。レーゼは独房にいるよ」

少しだけ優しい声音のガゼルが溜め息をつく。

「私はグランの相手をしてこよう…10分が限界だ」


「…悪い」







「…レーゼ」

机と椅子が一つずつあるだけの部屋。
レーゼは顔面蒼白で床に座っていた。

普段まとめ上げられている髪は下ろされ、暗い表情を更に暗くしていた。


あぁ、一つに結われたコイツの髪がふわふわ揺れるのが好きだった。
触ると柔らかくて、ずっと触っていたら顔を赤くしたコイツが「もうやめて」って手を払った。

昔の話だ…


俺は手を伸ばして、顔にかかる髪を後ろに流しながらまた「レーゼ」と、声をかけた。
やっぱり柔らかい…とか、どうでも良いことを考えながら、

俺の手と声にビクリと身体を震わせ、謝る。


「もう…し、訳……申し訳ありません。バーン様、私は…」

「もう良い…お前は負けたんだ」

「!?」

その瞳が絶望に染まる…。

「だから、“もう良いんだ”………緑川」

「あ…」

緑川が目を見開き、すぐに項垂れる。
ゆっくりと頭を撫でてやると緑川が口を開いた。

「…ぃ……な」

「ん?」

聞き取れなくて、首を傾げる。
緑川は顔を上げて、真っ直ぐに俺を見た。


「泣いても良いかな?……晴矢」

「あぁ」

「…っ」

瞬間、緑川は顔を歪めて大声を出す。


「嫌だ!俺っ、忘れたくない!皆のこと忘れたくないよ…っ、何で?俺、父さんの為に頑張ったのに、父さんは俺が要らないの?…嫌だよ、晴矢……晴矢の事も忘れたくない…っ」


無言で緑川を抱き締めた。服が緑川の涙で濡れていくのを感じる。
ずっと抱き締めていたかった。


「緑川…きっと親父は今はまともな判断が出来なくなってるだけだ。全てが終わったらきっと迎えに行くから…だから」

「…もう良いかい?」

「!?」

「…グラン」

いつから居たのか、グランが無表情に俺達を見下ろしていた。


「グラン…様」

「ヒロトで良いよ、緑川…君はもうエイリアには居られないから俺達に上下関係はない」

「………」

「…ごめんね?」
緑川が無言で首を横に振る。


「俺が悪い…俺が負けたから、でも一つだけ」

緑川はヒロトを見てはっきりと言いきった。



「雷門を甘く見ない方が良い」

ヒロトは深い笑みを浮かべて頷いた。



「父さんが許してくれたら、また戻っておいで」








そして、
ジェミニは記憶を消され、追放された。


必ず迎えに行くから…それまで、



それまでは泣かないで、
俺を待っていて



しっかりとお前を抱き締めるから、そしたら


思いっきり泣いて良いから…、





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