噂のあの子 続編





「…いい加減にしてくれない?」

河川敷のグラウンドにて、砂木沼と共に練習をしていた緑川はうんざりした顔をした。

そんな表情も可愛いなぁ、などと思いながらニコニコと笑っているのはアフロディだ。

砂木沼は飲み物を飲みながら二人の動向を見ている。
緑川は砂木沼からタオルを受け取ると、汗を拭きつつアフロディを訝し気に見た。


「何で俺に付きまとうの?」

「僕、見目の良いものが好きなんだよね」

「はぁ?」

「君、可愛いから見てるの」

「…………」

緑川は溜め息をついてアフロディから視線を逸らした。


晴矢と風介…こいつを引き取りに来てくれないかなぁ、


砂木沼が首を傾げた。

「アフロディ、お前は緑川が好きなのか?」

「うん、好き」

「緑川はアフロディが嫌いなのか?」

「うん、嫌い」

「傷付くなぁ」

「じゃあ、何で笑ってるんだよ」

「君に蔑まれるとゾクゾクする」

「…お前、本当に気持ち悪いな」


砂木沼はそんな二人のやりとりにも大した反応を見せず、次の練習はどうしようか、等と考えていた。

自分に害がないのなら、当人達で好きにしたら良い。


基本的に自分に関係する事以外には冷めた対応の砂木沼である。


まぁ、緑川が泣くような事になればさすがに黙ってはいないが、今のところ問題なさそうだしな…、



「まぁた、お前は緑川にまとわりついて!」

どこからか聞き慣れた声が響いた。

砂木沼達は同時にその声の主を見た。
怒った表情の晴矢と、その側には疲れた表情の風介。


「そう言う君達はまた僕の邪魔をしに来たの?」

「緑川の気持ちを少しは考えたらどうだ?」

「いずれ僕を好きになるよ」

「ならないよ!」

「お前のその自信はどこから来るんだ」

「だって僕って美しいじゃない?美しいものに惹かれるのは人間の性だよ」

「あ、オレウチュウジンナンデアキラメテクダサイ」

「僕は神だから、心配ないよ」

「おい、こいつを病院に連れていけ」

「…もう、私達には制御できないかもな」

「俺…短い間でもコイツと同じチームだったとか信じられない」

「諦めんなよ!吹雪も代表復帰したから、コイツが来ても追い返す奴がいないんだよ!」

「ふふっ、僕達を引き裂くものはもう無いね」

「…風介、帰るか」

「そうだな、もう関わらない方が私達の精神のためだ」

「裏切り者!」



シュート練習でもしておこうか、

騒がしさから目を背けた砂木沼は一人でボールを蹴り上げた…。








「何で…お前がいるんだ」

「え?偶然、偶然」

練習が終わる頃には、アフロディが居なくなっていて安堵していた緑川が帰りに雷雷軒に寄ると、ラーメン店には似つかわしくない人物がいた。

アフロディはニッコリと笑っているが、偶然のはずがない。
思わず引き返したくなったが、円堂に教えてもらったこの店のラーメンは美味い。

何でアフロディのために諦めなければならないのか、

そう考え直した緑川は店内に入り、響木に注文をする。


「緑川、お前…ドリブルに磨きがかかったようだな。だが、まだ左サイドが甘いようだ」

「え、何で…」

響木に練習風景を見てもらった事はない。
しかし、確かに左は苦手だった。何故分かったのだろう。


「どこかの神からお告げがあってな…後で練習メニュー組んでやるから砂木沼に相談しろ」

「…………」

アフロディに視線を向けると、アフロディは素知らぬ様子で餃子なんか食べている。


「お前…」

「さて、怒られる前に僕は帰ろうかな。じゃあね緑川くん、また会いに来るよ♪」


クスクスと笑いながら去っていくアフロディに緑川は複雑な心境だ。

「別に怒るつもりなかったのに…」


緑川のプレイスタイルを分析して、悪いところを直す助言をしてくれるように響木に頼んでくれたのだろう。

「あいつ、どんな事言ってた?」

響木は「あー…」と唸り、答えた。




「緑川君は天使、凄く可愛い、砂木沼君が羨ましい。泣きそうな顔も好きだけど一番好きなのは怒った顔。堪らない…みたいな事をお前の写真を見せながら力説してたな」


「…………………」



やっぱり…あいつ殴っておこうか、


緑川はそう決意を新たにした…。




人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -