雷門のキャプテンはいつも笑っている。
俺達、御影のサッカー部は雷門に負けてフットボールフロンティアの本戦に出場することは出来なかった。
雷門のお陰で…というのは、かなり癪だが、洗脳から解放された俺達は本当のサッカーを取り戻す事が出来てそこは良かったと思っている。
だが、だからと言って雷門の奴らと馴れ合うつもりなんて毛頭ない。
無いのに…
「あ!御影の下鶴じゃん!」
サッカーボールを脇に抱えた円堂が物凄い笑顔で走り寄ってくる。
「お前ヒマ?今から河川敷に行くんだけど、一緒にサッカーやろうぜ」
「…何でお前とサッカーやらなきゃいけないんだよ」
「お前サッカー好きだろ?」
「…それがどうした」
「サッカーが好き同士!充分な理由じゃん」
当然の様にニカッと笑う円堂に俺が何も言わずにいると「さぁ、行こう」と、勝手に行く事にされていた。
「ユニフォームを持っていない」
今日は部活が休みだった為にユニフォームは持っていないし、制服のままだ。
「そのままでやれば良いじゃん」
円堂が歩きながら喋って遠ざかっていくから、思わず追いかけた。
「制服でサッカーやるのか?」
「格好なんて関係ないさ」
「…汚れる」
「汚れたら、母ちゃんに怒られて洗えば良い」
「…………」
そんな理由で母親に怒られた事なんてない…
「お前…変な奴だな」
「そうか?よく言われるけど、どこが変なのか分からない」
「雷門のサッカー部も大変だな…」
「よーし、来い!」
「本当に…やるのか?」
河川敷のグラウンドで、制服の上着だけ脱いで俺達は向かい合う。
俺はともかく、キーパーはかなり汚れそうなんだが…
「というか、お前…俺がいなかったら一人でどうやってサッカーするつもりだったんだ?」
「ん?リフティングとか、ドリブルとか…鉄塔に行けばタイヤもあるし」
……タイヤ?
俺は円堂の事を理解するのは諦めてボールを蹴り上げる。
ファイアトルネードはお前らのエースだけの技じゃない。
「お前やっぱりすげぇなぁ!」
泥まみれになった円堂は、そんなの気にする様子もなくキラキラとした笑顔を向けてきた。
気付けば、俺も円堂ほどじゃないが制服が汚れてしまった。
「お前のせいで制服が汚れた」
「でも、面白かっただろ?」
「………」
円堂が持っていたボールを俺の方へコロコロと転がしてきた。
「またサッカーやろうぜ」
転がってきたボールを円堂に向けて蹴り飛ばす。
「やりたいなら、今度は事前に連絡しろアホ」
“今度”があるのか、と自分の発言に自分で驚いてしまった。
「ははっ、りょーかい」
ボールを受け止めて言う円堂の笑顔が眩しく見えて顔をしかめた。
何だこの感じ…気持ち悪い。
それから、円堂からは何度か連絡があり、(連絡しろと言った手前、携帯の連絡先を交換してしまった)たまにサッカーをして過ごすようになっていたし、サッカーの約束以外にも世間話を一方的にされるようになっていた。
『お前って結構面白い奴だよな…雷門にいたら良かったのに』
「……っ」
円堂の台詞に何故か心臓が跳ねてしまい、さらには電話の向こう側で笑う様まで浮かんできてしまった。
「俺が…」
『ん?』
「俺が欲しいなら、さっさと来い!」
『…………』
言った後に、自分でも何を言ってるのか分からなかった。
すると、無言だった円堂が突然、
『今から行く』
と言って電話を切った。
呆然としてたら、暫くして息を切らせた円堂が本当にやってきた。
「はぁっ、はっ…迎えに、きた」
「遅い!」
俺がどんな我が儘を言っても、
円堂はただ笑って頷くだけだ。