俺が惚れた相手は最低な男だった





「ホント、つまんねぇの」

地面に横たわる少年目掛けてボールを蹴りつけ、円堂は言った。


「全く手応えないし、お前ら本当にサッカーやってたの?ちゃんと練習してる?」

倒れてるのは3人。
円堂に勝負を挑んできたらこの様。その一人一人を蹴りあげ、円堂は続ける。


「大体さ、うざいんだよ…何で俺がいちいちお前らの相手しなきゃいけないわけ?それに」

「円堂」

俺が声をかけると、ピタリと動きを止めて振り返った。


「もう気絶してる」

「あ、じゃあ聞こえないか」

最後に強く蹴ると、踵を返して俺に近付く。
目はそらさない。それが俺の中のルール…破れば、


「俺は弱い奴が嫌いだ」

「知ってる」

円堂が俺の頬を撫でる。

「辺見…お前も弱い」

「…知ってる」

言い終わると同時にキスをされ、それに応える。

「…ん」

「でも、お前は俺から逃げない。だから側に置いてるんだ。分かるな?」

ルールを、


破れば…



「逃げたら……許さない」


終わりだ。






俺だって、最初からこんな最低な男に惚れてた訳じゃない。
寧ろ、嫌いだった。



「お前…帝国の辺見だろ?」

「あ?」

部活帰り、道を歩いていたら声をかけられた。
声の主は雷門サッカー部のキャプテン。そいつはサッカーボールを軽く上げて、ニヤッと笑った。


「サッカーやろうぜ?」

「はぁ?」

何を言ってるんだ、こいつは。

「練習試合なら学校を通して正式に手続きをしろ。俺に言われても困る」

「勘違いすんな…試合をしようって言ってるんじゃない。サッカーをしようって言ってるんだ」

「?」

練習に付き合えと言われてるのかと思った。
まぁ、他校の奴がどれ程か実力を見るのも悪くないって…そう思った。







「…ぐっ」

腹部にボールを叩き付けられ、膝を折る。
何がサッカーだ…ただのリンチじゃねぇか。

「俺さぁ、弱い奴が嫌いなんだよね」

「がはっ…」

今度は直接蹴られる。
辺りはもう暗闇に包まれ、人通りのない河川敷で俺の呻きが虚しく響くだけだった。

「帝国って強いかと思ったら、大したことないのな」

髪を鷲捕まれ、無理やり顔を上げられる。



「死ね」

目が合った瞬間に吐き捨てるように言ってやると、円堂は不思議そうな顔をした。

「お前、面白いな…こんなボロボロなのに俺にそんな事言うのお前が初めてだ」

「知るか…、汚ない手で触んな、離せ」

「…………へぇ、触られたくねぇの」

表情を無くした円堂は、掴んでいた俺の頭をいきなり引き寄せた。


「んっ…んぅーっ!」

突然、キスされて激しく抵抗するが、身体の痛みと円堂の力には勝てなかった。


‐ ガリッ


「…っ」

円堂がバッと俺を引き剥がして唾を吐く。赤く染まった唾液が地面を汚した。


「…本当に良い度胸してんな、お前」

「死ね…いや、絶対殺す」

「怖い怖い」

馬鹿にしたように笑いながら、俺の頭を地面に叩き付けた。
一瞬、頭が真っ白になって遅れて痛みが襲ってくる。

「ぁっ…う」

「お前、気に入ったわ。ただ弱いだけじゃないみたいだし」

段々と円堂の声が遠くなる。
何か言ってるけど、

聞こえな………







「辺見」

「…っ」

ハッと意識が浮上する。目の前には円堂。その後方には倒れて動かない少年たち。


「何考えてた?」

「俺たちが…出会った時のこと」

「お前、生意気だったなー、今もだけど」

円堂はハハッと笑って歩き出す。俺もそれに続く。

「最初は俺に死ねって言うのが口癖だったよな」

「今でも死ねって思ってる」

「知ってるよ…でも、死ぬ時は」

「うん…」


死ぬ時は、



一緒に死のう



誰にも渡さない。


お前は俺に逃げるなと言うけれど…

逆なんだよ


俺がお前を逃がさない


こんなに、深みに嵌まってしまった。


その責任は取ってもらうから…

どこに行っても逃がさない



「円堂」

「ん?」


「俺はずっとお前と一緒だよ」


俺の言葉に、円堂が笑った。








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