生きる意味を探していた







「イナズマキャラバンの奴等は相当の力を付けてきている」

「あぁ」

「…バーン」


一瞬、普段のガゼルとは違う声音にバーンは伏せていた視線をガゼルへと向けた。


「お前…大丈夫なのか?」

「何が」

「……いや」

向けられる視線に堪えられなくなったのはガゼルの方だった。視線を逸らしてそのままバーンに背を向けた。


「とにかく、お互いに気を抜いてはいられないぞ」

そう言って遠ざかるガゼルの背中を見送ってからバーンは軽く笑う。


素直じゃないな…、


ガゼルは態度こそ冷たいが、心配してくれているのが分かる。

けれど、



「大丈夫、な訳ねぇだろ…」








サッカーをするのが大好きだった。
周りの子供達とサッカーをして遊ぶのは楽しかったし、上達すればするほど父さんが喜んだ。


『上手だよ』

って、そう言って笑ってくれる父さんを見るのが幸せだった。



いつしか、サッカーは義務になった。


強くなくてはいけない。
強さこそ全て。


子供達は力によって格付けされ、上下関係が生まれた。

兄のように慕っていたデザームも、弟のように可愛がったレーゼも、

自分の事を『グラン様』と呼び、頭を垂れて視線を合わす事はなくなった。




接し方が変わらなかったのは父さんだけ。
二人の時はいつものように『ヒロト』と呼んでくれた。


俺はまだ…

ヒロトでいられる。







「ヒロト」

「…父さん」

自室に戻る道すがら、吉良に声をかけられて立ち止まる。


「苦戦しているようだね」

「…すみません」

「ヒロトなら、こんな事態にはならないはずだよ?」

「…っ」

「期待しているよ。失望させないでおくれ」

「………はい」


頷いて、吉良の為に道を空ける。
吉良がいなくなってからややあって顔を上げる。


「……」

バーンが自分を見つめているのに気が付いた。「ふっ…」と自嘲気味に笑い、


「おいで」

と声をかけて歩き出す。
振り向かなくても、ついてくる気配を感じた。







「…つっ」

部屋についてバーンをベッドに突き飛ばす。


「滑稽だと思った?」


その上に覆いかぶさり、口端を上げる。


「俺はどんなに頑張っても父さんの求める“ヒロト”にはなれない…じゃあ俺は誰なの?何の為に生きてるの?」

「………」

バーンは何も言わずに無表情にグランを見つめるだけだ。

「…っ」


そんなバーンの態度にイラついたのか、グランはバーンの頬を殴る。

それでも何も言わないバーンの腕を片手で抑えつけ、首筋に舌を這わせながら服を脱がせようとして、止まる。




「……ん、で」

カタカタと震えるグランが耳元で呟き、勢いよく上体を起こした。


「何で!!何で抵抗しないんだよ!!いつもみたいに抵抗しろよ!!“俺”を否定しろよっ!!!」

「……ざけんな」


初めて言葉を発したバーンは、既に解放されていた腕を力の限り振り上げてグランを殴り付けた。

バランスを崩したグランの下から起き上がり、グランの胸倉を掴み上げる。




「ふざけんな!!俺はテメェの存在確認の為の道具じゃねぇぞっ!!!」

「じゃあ俺はどうやって俺を認識すれば良いんだ!!ヒロトにはなれない!!グランなんてただの呼び名!!俺は…っ」

「俺は吉良ヒロトなんて知らねぇっ!!!」

「…!?」

バーンの叫びに思わず、息を飲む。
掴まれた胸元が苦しい…視線が怖い。全てを読まれているような、望んじゃいけない、

俺は…






「吉良ヒロトなんて会った事もねぇし、どんな奴だったかなんて興味もねぇ!!俺がガキの頃からずっと一緒でよく知ってるのは基山ヒロトっ!!」


胸倉を掴んでいた拳は離れ、そして軽く胸元を叩いた。



「あんたなんだよ…っ」

「……………」


「“吉良ヒロト”になる必要なんて無い…あんたは基山ヒロトだ。優しくて、他人の事しか考えられなくて、サッカーが好きな…ただの基山ヒロトなんだ」


「……る、や」


「あんたはロボットでも人形でもない…だから、泣いて良いんだよ」


「…はるや」


「自分の意思で、自分の為に生きるんだ」


「晴矢」





声もなく、ただただ涙を流すヒロトを引き寄せて抱きしめる。


「俺はあんたを知ってる」


「俺は…俺で良いの?」

「あぁ」


「……ありがとう」






  君がいるから、

    僕は僕でいられる…





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