馬鹿な男を知っている





「…ぁ…はっ…っん、ぅ…」


バーンは目の前にある、シーツを握り締めた己の拳を見ながらただ声を押し殺す。
不規則なリズムに身体を揺らされ、それでも声なんて出したくはない。


「…強情」



後ろから呟く声が聞こえる。


五月蝿い、五月蝿い。

“お前”の望みなんて叶えてやらない、




「…っ」

「…ぁっ、っ…」






事が終わると、軋む身体を叱咤して出来るだけ早く服を着る。
グランは殆ど衣服は乱れていないままなので、その間無言で見つめてくるのがやる瀬ない。



「ねぇ…」

ふと、グランが呼び掛ける。バーンは一瞬だけ動きを止めたが、返事をする事なく再び服を着る作業に戻る。
グランは返事が返ってくる事など期待していない様子で言った。


「ロボットに意思を持たせる事は必要だと思う…?」

「?」

訳が分からず、グランを見るとグランは何を考えているのか分からない虚ろな表情で呟いた。


「必要ないよね、だってロボットが感情を持っても涙は流せないんだもの」

「………」

「…何でもない、忘れて」



バーンは、数秒だけ目を伏せてから静かに部屋を後にした。
扉を閉めた瞬間に溜め息をつく。



「…ちっ」

最近のグランはあまり喋らなくなった。
前は自分を蔑むような言葉を投げかけてくるのが常だったのに、

かと思えば今の様に訳の分からない事を話す。




まるで人形だ…


バーンは自室に戻る為に足を踏み出した。




いつからだろう。
アイツが変わってしまったのは、


初めて会った時のグランはバーンに優しく、いつも笑顔だった。

今でも笑顔を浮かべるが、同じ人物の笑顔でもこんなに違うものかと驚く。







『僕は、ヒロトっていうんだ。よろしくね』

小さい頃のヒロトは物静かで、周りの子供達を一歩後ろから見守るタイプの子供だった。

バーンもヒロトとは違う意味で周りの子供達から一歩離れていたから、何となく気になっていた。


『ヒロト』

たまに名前を呼ばれると、ヒロトは1テンポ遅れて反応する時があった。
まるで“あ、自分の事か”というような表情を一瞬だけ浮かべて笑顔で返事をする。

バーンにはそれが不思議で堪らなかったが、後にヒロトの事情を知って納得した。

それと同時に、初めて…ほんの少しだけ“父”に嫌悪を抱いた。





『俺はね、“ヒロト”になるんだ』

昔、ヒロトがバーンに言った言葉を思い出す。






ガンッ!!


気付けば壁を殴り付けていて、その衝撃と音に現実に引き戻された。


「…クソが」


ズキズキと痛みを発してきた拳を下ろし、意識してゆっくりと開く。



「本当に……馬鹿な奴」




なぁ、知ってるよ…
本当は“ヒロト”になんてなりたくないんだろ?



足掻けよ、逆らえよ…

あんたは“ヒロト”じゃないんだよ




俺は…

あんたの望みなら叶えてやれる

だから勇気を出して手を伸ばしてみろよ



  掴んだら、絶対に離さないから…





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