瞳子は名前を呼ばれると、ヒロトに向けて子供を宥めるような微笑みを向けた。
「悪い子ね、ヒロト…姉さんの敵になるの?今からでもこっちに来て良いのよ」
「………っ」
キッと、己を睨みつけるヒロトに軽く溜め息をついて「駄目みたい…」と後方にいたカイを見る。
「残念、ヒロトくんの実力なら大歓迎なのに」
肩をすくめて言うカイの隣では緑川が俯き、何を考えているのか窺い知れない。
ヒロトはそんな様子の緑川に一瞬だけ悲痛な表情を浮かべ、すぐに険しい表情になる。
どうして…何で姉さんまで、
「でも…こちらは既にメンバーは揃っている」
カイがそう言うと、前に出てきた二人…。
「!!?」
立向居達はまたしても驚かされた。どちらも、この稲妻町にいるはずのない人物だったからだ。
「木暮…と、エドガー?」
「凄いでしょ?木暮くんは瞳子さんが連れてきてくれたんだ。エドガーくんは土門くんが情報をくれてね…知ってた?日本で親善試合があるらしいよ」
「………」
自慢げにニコニコと笑いながらカイが言う。
一之瀬は土門を見た。しかし土門が一之瀬と目を合わせる事はなかった…。
「………」
アフロディは険しい表情で戦力を考える。
非常にまずい。
ただでさえ、こちらは人数が少ないというのに、向こうのメンバーが強力すぎる。
こちらの人数が足りないからと言って、前回のように人数調整をしようとする事はないだろう。
円堂の表情は今日で勝負を付ける気だ。
本気で潰しに来るはず。
「……」
アフロディはチラリと周りのメンバーを見る。
せめて、砂木沼が間に合えば…、
先程、情報を得たので知らせる為に雷門に来ると連絡があった。
それでも、足りないが…砂木沼ほどの実力ならかなりの戦力になるはずだ。
「これは……一体どういう事?」
「!!?」
それぞれが、様々な考えを巡らせていた為に近付いてきた人物に気付くものはいなかった。
その場にいた全員の注目を一斉に浴びて、息を飲む二人。
「フィディオ…テレス…?」
佐久間の声にフィディオは我に返り、困惑したように話す。
「何があったの?日本に来てマモルに連絡を取ろうとしても取れなかったから雷門中に来てみたんだけど…」
「…穏やかじゃねぇな」
テレスは円堂達に目を向け、片眉を上げる。
佐久間は数秒考え、ハッとフィディオとテレスに歩み寄る。
「力を貸してくれ!!」
「…え?」
「何だ?」
「向こうに強力な助っ人登場、って感じだね」
吹雪がクスクス笑うと、風丸が睨みつける。
「笑い事じゃないだろ」
「そうかなぁ?……だって、キャプテンが笑ってるじゃない」
「…っ」
吹雪の言う通り、円堂はワクワクとして堪らない。というように笑っていた。
早く目の前にある玩具で遊びたい無邪気な子供のようだ。
「フィディオとテレスか…確かに強いが誰が相手だとしても同じこと」
エドガーは腕を組み、鼻で笑う。
「私の前にはどんな選手だろうと平伏すのみ」
「期待してるよ」
カイも笑い、皆に言い聞かせるように口を開く。
「大丈夫、君達は強い…誰にも負けない。ずっと一緒にサッカーを続けるんだよ」
紺碧の瞳が、
暗く飲み込むようにメンバーの姿を捉えた…。