「いやあああぁぁあぁあっーー!!!!!」
「!!?」
豪炎寺は部室の近くを通りかかった時に部室の中から聞こえてきた大絶叫に身体をビクッと震わせた。
更に直後に聞こえてくる大きな物音。
「…?」
現在、イナズマキャラバンは戦いの最中であるが少し休憩しようと雷門中に来ていた。
それぞれ練習をしたり休んだり好きに過ごしていたのだが、豪炎寺が軽く散歩でもしようかと校内をフラフラと歩いていたら聞こえてきたのだ。あの大絶叫が。
一瞬、春奈や秋など女子マネかと思ったが中途半端に低い声だ。
誰にしても、非常事態なのだろうと豪炎寺が扉を開けると最近になって見るようになった金髪。
「…アフロディ?」
「ふぇっ!?あ…ご、豪炎寺くん…」
「(ふぇ…?)何かあったのか?」
背中を向けて床にへたりこんでいたアフロディは、名前を呼ばれた瞬間に大袈裟にびくついて振り返った。
若干、涙目になっているのは気のせいだろうか。
「ぁ…いや、ちょっと…ボールを借りようと思ったら、荷物を散らかしてしまって驚いて」
「…………」
確かにアフロディの周りには様々な物が散らかっているが、今の言葉は矛盾している。
物音が聞こえてきたのはアフロディの大絶叫の後だし、これくらいであの叫びはないだろう。
しかし、アフロディがそう言うのならそれ以上は追求しない方が良いか。
豪炎寺は「…そうか」と返して、
「とりあえず片付けよう」
と落ちている雑誌を手に取った。
瞬間、アフロディがビクッと反応したのに動きを止める。
アフロディは豪炎寺の手元を数秒、凝視した後に「ぅ…うん」と頷いて、他の散らかった物達へと恐る恐る手を伸ばす。
「…?」
時折、バッと何処かを見てはホッとする行動を繰り返すアフロディを訝しく思いながら豪炎寺は片付けを手伝った。
と、その時。
「…あ、蜘蛛」
「きゃあああああっ!!!!」
「!!?」
ドンッと、
体当たりよろしくアフロディに抱き着かれてそのまま尻餅をつく。
「…アフロディ?」
既に蜘蛛は見当たらず、アフロディはガタガタと震えた後にハッと我に返って謝る。
「ごごごっ、ごめ…ごめんね!!」
しかし、依然として太股の上に乗られ、己のシャツは握り締められている。
まだ完全に落ち着いてはいないようだ。
「蜘蛛、嫌いなのか?」
「だ、だって…もう見た目が駄目じゃない?動きも…怖いよ、あんなの美しくない」
確かに蜘蛛を美しいと思う人間は少ないだろうが、
「ぁ、あの……豪炎寺くん」
「ん?」
「やっぱり…これって、恥ずかしいかな?」
「何が?」
「蜘蛛が怖いって…僕、男なのに」
「それは関係ないだろ…誰でも怖いものは怖い」
「そ、そっか…でも、他の人には内緒にしてね」
「あぁ」
まぁ、誰にでも知られたくない弱みのようなものはあるだろう。
それよりもこの状況をどうにかしてほしい。
自分は、思わずアフロディを抱きしめて宥めようとしてしまいそうになっている事が怖い。
そろそろどいて欲しい…と思ったのと同時に扉が再び開かれた。
「豪炎寺いるか?瞳子監督が呼んで…」
鬼道は二人の体勢を見るやいなやゆっくりと扉を閉めた。
『鬼道、豪炎寺いたか?』
『いや…いなかった』
外から円堂と鬼道の会話が聞こえてくる。
「?」
首を傾げるアフロディに豪炎寺は非常に言い難そうに言った。
「そろそろどいてくれないか?…鬼道の誤解を解かないといけない」
「え?」
豪炎寺のその言葉の数秒後、アフロディが真っ赤な顔で「違うんだよ鬼道くん!!!」と叫びながら部室を飛び出す事になる。