焔に溺れる | ナノ



あ、


「ホムラさま、」


見慣れた後ろ頭につい口からこぼれた彼の名前。
呟く程度だったのに、どうやら聞こえていたようで名前の主はゆっくりと振り向いた。いつもより低い声と共に(げ・・・機嫌わるそう)


「・・・何だ」
「いえ、つい」
「はァ?」
「久しぶりに見たなあ、と思いまして」


私がそういうと、彼は元からよっていた眉根を更によせて早歩きでこちらに来たと思ったらガシリと私の頭を鷲づかんだ。かなり痛い。


「ほ、ホムラさ」
「用もねェのに呼ぶなクソが」
「す、すいませ」
「あー聞こえねェなー」
「(ひどい・・・!)」


本当に、タイミングが悪かったらしい。
頭を掴んでいる手にギリギリと力を込められ今にも潰れそうだ。というかもう本当に出るんじゃ?これ中身出ちゃうんじゃないかな?
両腕ではずそうとしても、私なんかの力じゃビクともしないホムラさまの腕。
あ、なんか痛すぎて涙まで出てきた。


「いいいいたいです!!」
「そうか、よかったな」
「ちょ出ちゃうほんとに中身出る・・・!」
「出せば?」


はずせと懇願したって笑ってるようで笑ってない表情のままシカトされた。
そうしたら涙腺の方に限界がきて両目から涙が溢れ、両腕が塞がっているので拭うこともできずそのまま床にぱたりとおちる。
途端、頭の腕がのけられ、私は重心を崩して真正面からホムラさまに突っ込んだ。


「うわっ」
「なにやってんだ」
「!!」


ホムラさまは華麗に私を避け、私はそのまま床にダイブした。思い切りいったので、膝を擦りむいた気がする。・・・なんなんだもう、踏んだり蹴ったりか!


「うう、痛い・・・」
「なまえが用もないのに呼ぶのが悪い」


理不尽な上司に私は涙するしかなかった。
やられっぱなしも癪なのでちょっとした反抗でキッと睨んでみたら、それ以上に怖い顔で睨み返されてしまい一瞬にして目を逸らした(勝てるか!)


「・・・のに」
「あ?」
「久々にホムラさまに会えて嬉しかっただけなのに・・・」
「・・・・・・」


そう、上司といえどもホムラさまはお忙しい身なのでしたっぱなんかの私は週に数回見れたらいい方なのだ。ここの所はそれ以上に会えてなかったし。
それなのにこの仕打ち、と打ちひしがれていると上からバシンとしばかれた。
なんて鬼だと顔を上げたら既にホムラさまは背を向けて歩き去る途中で。
傍からみたら、相当ひどい方に見えるんだろうなと思ったけど、でも私にはそうは見えなくなっていた。


「ホムラさま、」
「持ち場に帰って仕事しろ仕事!」


背を向けたままそう吐き捨てられても、もう全然怖くなかった(だって、)
そのままホムラさまの姿が見えなくなる。私はそこでやっと小さく吹き出した。



だから私は繰り返す
(耳、真っ赤ですよ)


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