My little red | ナノ
私の頭の中はパンク寸前だった。
数時間前まで私は学校にいたのに、階段から落ちたらそこはゲームの中?
しかも私の体はこんな、退化してしまったのか園児同然の体になってしまっている。
私は自分の小さな手をぎゅっと、これでもかという程握り締めた。
思うことはこればかり。どう考えても、ありえない。
でもこの身に起きた事と、目の前の決定的証拠のピカチュウは夢でもなんでもない現実だ。
ああ、まるで見せ付けてくるようだ。有り得るのだと。
「どうして・・・、」
「・・・?」
レッドさんはピカチュウと一緒に小首を傾げている。
いけない、困らせてしまっている。
なんでもないですよと、言いたいのに、まだ信じたくなくて。
鼻の奥がツンとする。視界が滲んだと思ったらあっと言う間に涙が零れた。
こっちに来てから泣いてばかりだ・・・まあ、泣きたくもなるだろう。
ボロボロと零れる涙をそのままにしていると、ピカチュウがどうしたの?とでも言うように鳴いたのが聞こえた。
ごめんねピカチュウ、君が悪いわけじゃないのにね。ただ今はちょっと答えられないんだ。
本当は分かっていた。いい加減泣いているばかりじゃダメなんだって。
それでも一度溢れた涙は止まらなくて、そのまま私は気づかないうちにレッドさんに話しかけていた。
「・・・っく、わたし・・・ひっく」
「・・・どうした・・・?」
「う、ほんとは・・・っ、違うんです、」
「・・・・・・?」
「わたし、学校にいたのに、階段からおちて・・・」
「・・・ああ」
「それで・・・そしたら、何故かここにおちて、っ・・・」
「ああ」
「あの変なやつに、追いかけられて・・・・・・レッドさんに、助けてもらったんです」
「・・・そうか」
「っう、信じられない、ですよね・・・こんな、」
「いや、」
「っえ?」
「信じる」
涙で顔がぐしょぐしょだとか、そんなの気にする間もなく私は顔を上げてレッドさんを見た。彼はただ赤い目でこちらを見ている。
今の私の顔は口をあんぐりと開けた、ひどい間抜け面なんだろう。
でも、そんなのはどうでもよかった(今、なんて言ったの?)
「う、うそ」
「嘘じゃない」
「・・・ほんとうに?」
「ああ」
私には彼が嘘をついているようには見えなかった。
それに、会ったばっかりだけどレッドさんは嘘をつくような人じゃないと思った。
ただ純粋にそう思ったのだ。
それと同時に出会ったのがレッドさんでよかったと、心から思った。
涙はいつの間にか止まっていた。
「レッドさん、ありがとう」
そう言うとレッドさんは頷いて、私の頬に手を添えたかと思うと、親指の腹で少し濡れていた目尻をぬぐってくれた。
うわ、なんか、照れる・・・!
途端に今更レッドさんの顔が整っている事に気づいたり、今のも恥ずかしいけどそういえば私なんか頭撫でて貰ったりしてなかった?!とか色々仕出かした事を思い出した。
今ほど自分の体が幼くてよかったと思った事はないだろう。
それでも顔が真っ赤になっているだろう私に救いとばかりに可愛らしい鳴き声が届いた。
「チャア!」
「わあ!そうだね。ピカチュウも、ありがとう」
レッドさんの肩にいた筈のピカチュウがいつの間にかすぐ横にいて、私を元気づけるように手を伸ばしてくれた。
その手を掴んでお礼を言うと長い耳をピコピコと動かして笑った。
なんて可愛いんだろう。
ゲームのキャラクターなんかじゃない本物のピカチュウはこんなにも愛らしいのか。
こんな素敵な人たちがいるこの世界は、もっともっと素敵なんだろうか。
「ほんとうに、ありがとう」
レッドさんは少し微笑んで、またその大きな手で私の頭を優しく撫でてくれた。
すこしのきぼうを