My little red | ナノ



あれからしばらくして、レッドさんはふらりとどこかへ行ってしまった。
でもピカチュウと荷物らしきものを残して行ったので、またここへ戻ってくるのだろう。
ちなみにピカチュウは私の腕の中だ(ふわふわとした毛並みが温かい)

私はというと、たくさん泣いて多少は頭が冷えたのかだんだん冷静に考えれるようになってきていた。
ここはやっぱりあのゲームの、ポケモンの世界の中で間違いないと思われる。
私がここに落ちてきた事と体が小さくなってしまっている原因は分からないけれど、レッドさんはそんな私を信じると言ってくれた。
まだ色々話してない事も多いけど・・・レッドさんなら、信じてくれるだろうか。
正直いうと、あまり自信がない。
もし違う世界から来たという人がいたら、私だったら信じられない。
漫画とか本の中だけの作り話だと笑い飛ばすだろう。
ましてやこの世界が舞台のゲームがあるだなんて論外だ。
・・・・・・自分がそんな状況下にあるなんて、早退する前の私なら思いもしなかっただろうな。当たり前か。


ふ、と自嘲気味に笑ってみたら船を漕いでいたピカチュウの耳がぴくりと反応した。
やっぱり可愛い。テレビのCMなんかとは全然違う。
頭を撫でてやると、ピカチュウは気持ちよさそうに目を細めた。
自然と私の頬も緩んで締まりのない顔になる。
だんだん考えるのが嫌になってきて、無駄とは分かっていてもピカチュウに話しかけてみた。



「ね、ピカチュウはわたしが違う世界から来たっていったら信じてくれる?」



ピカ?と鳴いたピカチュウは、よく分からないという表情をした。かわいい。
やっぱり無理か、とため息をついたら急にピカチュウがスルリと腕から抜け出して私の肩を越えていった(え、もしかして怒った?)
振り向こうとしたら聞き覚えのある低い声が聞こえ、思わず体が停止した。



「なぁ、」


「!」


「・・・今の話、本当なのか」



いつの間にか戻ってきていたレッドさんが真後ろに立っていた。ピカチュウは彼の足元にいる。
なんで気づかなかったんだろう・・・しかも今の話を聞かれてしまったらしい。
言うまいか悩んでいた所でアッサリとバレてしまい、私はどう答えていいか分からなくて口を開いたり閉じたりするしかできなかった。
レッドさんは相変わらずの無表情だけど、なんだか今はそれが怖くて余計に喋れなくなってしまい、その上沈黙が痛くて私はまた俯いてしまった。

私、こうやって逃げてばっかりだ。
見放されたらどうしよう。拒絶されたらどうしよう。
レッドさんはそんな人じゃないのに、分かっているのに顔を見れない。
そんな私に低い声が降ってきた。
体がびくりと大げさに反応して、反射的に手を握り締める。



「・・・ナオ」


「っ・・・はい」


「俺は、信じると言った」


「あ・・・」


「・・・それに・・・ナオは、ナオだ」



視界が陰り、手に何か温かいものが触れた。レッドさんの手だ。いつの間にか目の前に移動していたみたいだ。
レッドさんの手は力を込めすぎて白くなっていた私の手を包み込んだ。
何故だかその大きな手に安心して、込めていた力をゆっくりと解き私はやっと口を開いた。



「レッドさん」



返事はないけど、そのまま続ける。



「わたし・・・この世界の人じゃないんです」


「ああ」


「それに、歳もほんとは違うんです」


「ああ」


「それでも、」


「信じるよ」



私は顔を上げた。至近距離で赤い瞳と目が合う。
暗くて深くて綺麗な瞳は、その持ち主の手と同じで温かかった。



「・・・わたし、ここに居ても・・・いい?」


「ナオが望むなら」



その一言で、もやもやしていたものは全て吹き飛んでしまった。
それと同時に私はこの世界でこの人といたいんだと確信した。
元の世界に未練がない訳じゃないけれど、最初から薄々と感じてはいたのだ。もう戻れないんだろうな、と。胸にぽっかりと開いた空洞のような虚無感があったのに、ずっと気づかないふりをしていたから。
でも、その虚無感もたった今レッドさんによって消え失せてしまった。
こんなにすぐに諦められるなんて私って意外とドライなのかな?(自分でもビックリしてる)
・・・ううん、そうじゃない。それもあるかもしれないけど、やっぱりレッドさんが穴を全部埋めてくれたからだ。



「わたし、レッドさんとずっと一緒にいたい」


「・・・そうか」



その返事がとても嬉しくて、笑うとまた頭を撫でられた。
そういえば私、結構な頻度で撫でられてるなぁ・・・撫でやすい頭をしてるんだろうか。
まぁいいか。レッドさんに撫でられるとなんだか幸せな気分になれるし。
そのままにしていると、ふとレッドさんが口を開いた。



「ナオの目は、俺と同じ色をしているな」


「・・・え?」



おかしい、私の目の色は黒の筈だ。
ここには鏡がないから分からないけど、目の色が変わっている・・・?



「私の目・・・赤いですか?」


「・・・?ああ」



どうやら私の体は小さくなっただけじゃなく目の色が赤くなってしまったらしい。
不思議なこともあるものだ。少し驚いたけど、なんだか今更目の色が変わったくらい大して変わらない気がしてくる。
それにレッドさんと同じ赤色なので、むしろ嬉しいかもしれない。



「ふふ、お揃いですね」


「・・・そうだな」


「髪の色も、同じです」


「ああ」


「なんだか兄妹みたいですね、わたしたち」


「・・・兄妹、か」



レッドさんはそう言うと、少し考え込むような素振りをした。
どうしたのだろうと首を傾げると、彼はとんでもない事を口にした。



「なら、妹になればいい」


「・・・・・・いもうとに・・・って、ええ?!」



開いた口が塞がらないとはこの事なんだろうなと思うくらい、それくらい私はビックリしている(誰だってするよ!)
冗談だろうと言えば、冗談ではないと返された。
私がレッドさんの、妹に?本当にいいのだろうか。

だってこんな嬉しいこと、他にないよ!



ねがうはともに



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