夕暮れ時、この広場を風が過ぎていく。
その風が、俺と、目の前の女の人の髪をなびかせた。
しばらくして、我に帰った。
あれ、俺どうしたんだ…?
「すいません、そのボール…」
俺が口を開くと、その人は足元から少し離れた、俺のボールを手に取った。
「はいっ」
俺の目の前まできて、ニコッと笑って渡してくれた。
「自主練習なんて、偉いね。霧野蘭丸君」
「え…?」
ボールを受けとってから驚いて見た。
「なんで…、俺の名前を?」
「雷門中サッカー部、ファーストチームのメンバー。雷門中で知らない人なんていないよ。」
「雷門…、って事はもしかして…」
「そ、私も雷門中。雷門中3年、神凪祐梨。」
差し出された手を、俺も手をとった。
「霧野…蘭丸です。」
よろしくね、と、先輩は俺の手をとった。
冷えきっていた手には、とても温かい手だった。
「祐梨先輩は、何してたんですか?」
神凪先輩と言ったら名前でいいと言われたので、祐梨先輩と呼ぶようにした。
「うーん…。夕日が、綺麗だったから」
見てたら時間が経ってた、とほわほわした笑顔で言う。
喋ってわかった事があった。
祐梨先輩は、かなりの天然だ。
そして、思った以上に子供っぽい。
悪く言っているつもりは無い。
いや、むしろ…。
「聞いてる?蘭丸君」
「ッ///」
先輩なのに、可愛いと思ってしまった。
「その猫があの木に登って、それ追いかけて登ったら、すっごい綺麗な夕日が見えたの」
いつか蘭丸君にも見せてあげたいなぁ、と相変わらず祐梨先輩は笑顔を絶やさなかった。
「あ、もうこんな時間だ…。なんかゴメンね、無駄話ばっかり」
そう言われたら、あまり気にしてなかったけど、時間が経っていたようだ。
「送ってくよ。これでも先輩だからさ」
「な、なに言ってるんですか!俺が送ります」
蘭丸君可愛いから襲われないでね、とからかったように先輩は言う。
「男が可愛いって言われもいい気しないですよ」
「褒めてるの!だからそ
んな顔しないでよー」
本当にこの人は、大人っぽいんだか子供っぽいんだか…。
だけど、不思議と嫌な気はしなかったんだ。
二人の帰り道
意外な一面を知った
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