「私の両親、共働きでさ、」
祐梨先輩が静かに過去を語ってくれた。
祐梨先輩が子供の頃から両親が共働きだった。
だから両親と遊んだり話したりする機会はなかなか無かった。
そんな中、祐梨先輩の誕生日に両親から誕生日に貰ったプレゼントが今髪に止めているリボンだと。
「なかなか話せ無かったからさ、本当に嬉しかったんだ」
「その、いま両親は…?」
そう聞くと、祐梨先輩は少し困ったように、寂しく笑った。
「私が中学に入る少し前…、別れたの」
聞いてはいけなかったとすいませんと謝ると、祐梨先輩は気にしないで、と言ってくれた。
「私はお父さんに引き取られたけど、お父さんは海外での仕事が増えたから海外に行ってるんだ」
それでも時々電話してくれたり、手紙を送ってくれたりするんだ、と祐梨先輩は嬉しそうに笑う。
「なんで、先輩は平気なんですか…」
子供の時から両親となかなか話す機会が無く、今も一人で暮らしている、なんで先輩がいつも笑っていられるのか不思議だった。
何も知らなかったら、そんな悲しい過去があるだなんて想像もつかないような、明るい笑顔でいられるのか。
「お父さんも気をかけてくれているし、学校の友達もいるからさ、寂しくないかな。全然って言ったら嘘になるかもしれないけどさ」
それに、と言った祐梨先輩をみると、祐梨先輩は俺をみて優しく笑った。
「蘭丸くんともこうやって話せれてるかな」 その時の笑顔は、とても綺麗で、大人っぽかった。
「俺…、ですか?」
「うん。蘭丸くんと話してるの楽しいからさ」
さっきとは打って変わったような子供らしい笑顔で笑う。
「だから、平気」
無邪気に笑う先輩。でもやっぱり何処か寂しそうで、無理してるんじゃないかって思う。
急に祐梨先輩は木から飛び降りて、もう帰ろっかと俺を呼んでいる。
「先輩」
俺も下に降りて先輩と向き合った。
「ん?蘭丸くん、どうし、」
先輩の腕を引くと、俺よりも小さい先輩が腕の中に収まった。
「無理しないでください」
「え?」
「悲しい時は、悲しいって言っていいんですよ?」
自分でもなんでこんな事を言ったのかわからないけど、先輩が無理してるように感じた。
前々から感じていた、笑っているなかにも時々急に悲しそうに目を伏せていた。
あの時は、どうしてだかわからなかった。
「…、ゴメンね蘭丸くん。もう少しだけこうさしてて…」
遠慮がちに俺の背中に手を回した祐梨先輩を、しっかりと俺は抱きしめた。
悲しみを抱きしめて
どんなことがあっても、祐梨先輩を守ってあげたい
そう思った
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