10「本当!?おめでとう!」
電話の向こうからは、嬉しそうに話す風丸の声が聞こえてきた。
その声を聞いていると、まるで自分の事のように嬉しくなる。
あの日から数ヶ月の月日が経って、風丸はFFI日本代表選手に選ばれた。
そして今の報告は、イナズマジャパンがアジア予選で優勝して世界大会への出場が決まった、と言うものだった。
アジア予選の間、私はちょくちょくと練習を見に行って風丸を応援していた。
世界への切符を手に入れる為に頑張っていた姿を見ていたから、その努力が実ってくれて本当に嬉しかった。
《本当に嬉しいよ。世界と戦えるなんて夢みたいな話だ!》
「世界…か…。」
世界を相手に戦うだなんて、想像もつかない。
風丸は、本当に凄い舞台で戦って行くんだ。
《それでさ、今日雷門に帰るから会えないか?》
「うん。わかった」
時間と場所を決めて、少しの小話を決めてから電話を切った。
来たのは河川敷。ここには本当に思い入れがいっぱいある。
嬉しい事も、悲しい事も。
「悪い。待ったか?」
「うんん。今来た所だから」
声のした方向を見ると、息を切らしながら話かけてきた風丸がいた。
疲れているだろうから、そんなに急いでこなくてもよかったのにと思いながらも、わざわざ走ってここまで来てくれたのが嬉しいとも思ってしまった。
額の汗を拭いながら、風丸は私の横に腰を下ろした。
「全国大会、出場おめでとう」
そういうと、風丸は表情を和らげながらありがとう、と笑っていた。
その笑顔は、本当に嬉しいんだなってわかるぐらいだった。
そうだよね。アジア予選で勝ち抜いて、次は世界を相手に戦える。
「すごいね。世界を相手に戦えるなんて…。想像もつかないよ」
「あぁ。俺もまだ実感がわかない」
世界にはいったいどんな奴がいるんだろうな、と子供の様に風丸はいう。
本当にその笑顔はキラキラしていて、カッコイイなって思った。
「ここまでこれたのは、やっぱり祐梨のおかげだよ」
予想もしてなかった言葉に、私は思わず言葉を失っていた。
「そんな、事…」
ないと思う。私は何の力にもなってあげられなかった気がする。
支えてあげる、だなんて言ったけど本当に支えてあげられたかさえわからない。
「いや、」
ふと、手の平が温かい物に包まれて見てみると、風丸の手が私の手に添うように包んでいた。
「祐梨がいてくれたから、いつも応援してくれたから、俺はここまでこれた。だから、ありがとう祐梨」
心の中が、何とも言えないような気持ちで染まっていく。
風丸の綺麗な瞳には、私の姿が写っている。
風丸の真っすぐな言葉、瞳、気持ちは、確かに私に向けられた言葉だった。
「…ありがとう。私、風丸と一緒にいられて、応援ができて嬉しかった」
風丸と一緒にいられた時間、風丸を応援できた事。
勝利を一緒に喜び合えたこと。
どれも、私にとっても幸せな時間だ。
「俺が傷つけるような事をしてしまったのに、それでも一緒にいてくれると祐梨が言ってくれて嬉しかった」
「私だって。風丸の気持ちも考えないで酷い事ばかり言ってしまったのに、また一緒にいさしてくれて嬉しかった」
風丸と目が合って、二人で小さく笑い合った。
今、こうして風丸と笑い合える事が、何よりも幸せだな。
二人の気持ちがすれ違った、あの時間は、辛くて苦しい時間だった。
だけどあの時間で、お互いの本当の気持ちや自分自身の気持ちがわかった。
そう、今までの全ての時間が合ったからこそ、二人で乗り越えてきたからこそ、今こうしていられる。
「今度は世界一になって帰ってくるよ。」
「うん。」
「だから…」
「…もちろん、ずっと応援してるよ。」
本当なら、私も会場で応援したいけど、行くことができない。
遠く離れた日本からしか応援できないけど、気持ちはずっと変わらない。
私は、風丸達が世界一になって帰ってくるのを信じて待っている。
「ありがとう。」
肩を引き寄せられ、風丸の肩に寄り掛かると、風丸の温かさが伝わってきた。
安心するように目を閉じるて、見を委ねた。
それからすぎる時間は、永久のように長く感じられた。
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