ある島に立ち寄った時だ。珍しく名前が興味を示した店があった。


普段はおれの行く所全てについて来るというのに、その店の前から離れない。
どうかしたのかと店を覗けばワノ国の菓子が店先に並んでいた。


「…菓子が珍しいか」

「!?菓子?お菓子なの?」

「そうだが」

「!!そうなんだ。不思議な形…」


…どうやら初めて見る物らしい。
名前の手を引いて店に入れば、目を輝かせて忙しなく首を動かす。


「…気に入った物があれば買え」

「…え、いいの?じゃあ遠慮なく!」

「…!?」


遠慮なく?…名前が遠慮なくとは余程気に入ったのか。カゴに様々な形をした菓子が追加されていく。


(…食べきれるのか…?)


カゴ一杯になった菓子の支払いを済ませ島の宿に向かう。
道中、隣を歩く名前の顔を見れば幸せそうで…気付かぬうちに顔がほころぶ。


「…ミホーク、なに?(なんかニヤニヤしてる…)」

「フ…愛らしいな名前は」

「…?!」


顔を赤くしておれの先を足早に歩く。…が、


「…名前、違うぞ。宿はこっちだ」

「!!!」


そうこうしているうちに宿へ着いた。宿の奥方に一週間分の支払いを済ませ、部屋への鍵を受け取る。
部屋には大きめのベッドと簡素なテーブルが一つと椅子が二脚。…気を利かせたのか利かせてないのか…

名前はテーブルに向かい、先程買った菓子を広げた。


「かわいい…!」

(…おれはお前のがかわいいと思うぞ)

「本当にお菓子なの?」

「疑うのか?食ってみれば良かろう」

「…勿体無い!」

「…ワガママだな」


帽子を脱ぎ、剣も置く。
椅子に腰掛けると床に座りテーブルに乗せた菓子に魅入っている名前が見下ろせた。
並んでいる菓子の一つをつまみ口に入れると、程良い甘さが広がる。


「ミホーク!」

「ふむ、茶も買ってくれば良かったな」

「…ほ、本当にお菓子なんだ…!」

「…まだ疑っていたのか」


もう一つ、口に運ぼうとすると名前が見上げているのに気付く。


「…名前、此処に座れ」


…名前の手を取り膝に座らせる。
一口大の菓子(恐らく砂糖菓子)を口に入れ軽く噛み砕き、疑問符を浮かべる名前に口付けた。


「ッ…!!」


菓子の欠片を舌で押し込むと互いの唾液で溶け、甘さが広がる。


「ぅん…っ」


甘くなった唾液を味わうように舌を絡ませれば、それに応えるように抱き付いてくる。


「っはァ…」

「…甘い、な」

「…ん、甘い…」

「もう一ついるか?」

「…うん」


同じように菓子を噛み砕き、口付け、絡ませる。
…溶けてしまいそうになるのはおれのほうだ…


「ん、…んー…美味しい…」

「…そうか」

「…美味しいけど、ミホークのいつものちゅーのがもっと甘くて美味しい…」

「……!!」

「あ、これ何だろう」


次に名前が興味を持ったのはほんのり桃色の花の形をした菓子だった。

ぱくっ

…先程まで疑っていた奴が何の躊躇いもなく口に運ぶとは。


「ん、やわらかい。…でもなにこれ?中に白いの入ってる」

「白餡だ」

「…しろあん?」

「…食える物だから安心して食え」

「んー、…あ、上に乗ってるお花、ちょっとしょっぱい!」

「味にアクセントをつけているんだ。美味いか?」

「うん!美味しいし面白い!ワノ国かあ…行ってみたいな…」

「…いつか連れて行ってやろう」

「本当?ありがとう!」

「いつになるかはわからんが」

「ミホークと一緒ならいつでもいい」

「……!」

「次どれ食べよう?」





和菓子。


(これも美味しい!)
(……)
(うーん、こっちはもちもちしてて面白い!)
(……名前)
(うん?)
(…そんなに何処に入ってるんだ?)
(…おなかの別次元?)


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