『暫くこの宿で待っていろ』


そう言って部屋を出てからもう4日。…何処に行ったの…?


待ってるよ。



「鷹の目の嬢ちゃん、今日も好きなもん食べて行きな!」


夜になって宿屋に併設されているレストランに入るとここの主人がニッカリ笑って話しかけてくる。
…きっと、宿代とか食事代とか、ミホークが全部通常の倍以上の代金を先払いしてくれてるんだろう。
でなきゃ、私は今頃野宿してる。


「…ありがとう!今日のオススメは?デザートも欲しいです」

「オススメは蟹グラタンだな。いい蟹仕入れたんだよ!デザートは…そうだな。グラタンが濃厚だからさっぱりするフルーツタルトを用意しよう」

「お願いします!」


おう任せな、ご主人はまたニッカリ笑って厨房に入ってく。
ウエイトレスがグラスに水を注いで恭しくお辞儀をしてその場を離れた。
…周りを見ると他の客はウエイトレスに注文をしている。薄々感づいていたけど、ご主人直々の接客は珍しいらしい。

なんだか、さみしい。
そんな考えを流すように冷たい水を喉に流し込んだ。


「フッフッフ…!嬢ちゃんがあの鷹の目の?」

「…はい?」


いつの間にかピンクな人が隣に座っていた。


「アイツもなかなか見る目あるじゃねぇか。フッフッフ!」


…フッフッフ、ピンク、グラサン。
いつだかミホークが話していたあの人だ。


「…ドンキホーテ・ドフラミンゴ…」

「フフフ!知ってるのか。嬉しいなァ」


『あの男には気を付けろ』

ミホークの言葉を思い出す。
…何をどう気を付ければいいんだっけ?忘れちゃったよミホーク…


「…あの、何かご用でしょうか」

「フフフ…!ここに嬢ちゃんがいるって聞いて興味がな」

「…興味」

「嬢ちゃんお待たせ!グラタン出来た…よ?……どっドフラミンゴ…!」

「お、美味そうだな。おれにも」

「かしこまりましたすぐに…!」


ご主人は近くに居たウエイトレスに何か告げ、慌ただしく厨房に戻っていく。
程なくしてウエイトレスが赤ワインを運んできた。


「こちらのワインは」

「あー、説明はいい。注いだら下がれ」

「え、あ…申し訳ございません…!」

「ちょっと、ドンキホーテさん!説明くらい聞いても…」

「フッフッフ!美味けりゃ何でもいいんだよ。それより食わないのか」

「…貴方のが来るまでお待ちします」

「フフフフ…!!優しいなァ嬢ちゃん!気に入った」


不意に、ドンキホーテさんの手が伸びてきて顎を捕まれた。真意がわからなくて彼の目…グラサンを見る。

さわさわと指先で顎を撫でられ、そのまま首筋をなぞられた。…ミホークに触れてもらうほうが、いい。


「…綺麗な首だな、抱かれた時にマーク付けられないのか?」

「…はい?!」

「フッフッフ!おれが付けたらどんな顔するんだろうなァアイツ…」


何を言っているの…?


「お待たせ致しました!蟹グラタンで…ございま…す」

「…フッフッフ!飯にするか」


手が離れて楽になる。
ご主人は再び慌ただしく厨房に戻って行った。…そんなに恐い人なのだろうか。このピンクは。

…いただきます、手を合わせて呟いた時にはドンキホーテさんは既に食べ始めていた。


「…七武海ってマイペースな人が多いんでしょうね」

「嬢ちゃんは飲まないのか?」

「マイペースですね。私お酒弱いのでいりません」

「…フフフ…!」


それからは特に話すこともなく、黙々とデザートも食べる。あ、タルト美味しい。今度ミホークと食べよう。


食後、気まずい空気が流れる。…これは何か話さないといけないのか?
…いや、話す必要ない。うん。部屋に戻ろう。


「嬢ちゃん」


…うわあ呼び止められた。


「外行くぞ」

「えっ、何でそんな急に」

「来い」

「うわ、ちょ、引っ張らないで!」


拉致られた。


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