上杉夫婦
上杉定勝*市姫
「市…?」
寄りかかって体重を預けて、丁寧に重ねた手の指を絡めた。
「定勝殿を、離したくない」
米沢に帰したくない。なんて、幼子のような我儘。でも帰してしまったら、次に彼に逢えるのはいくつかの季節が巡った後。
「内匠殿や主計殿が羨ましい…ずっと貴方の傍に居れるのだから」
春になったら花を愛で、夏になったら涼を取り、秋には紅葉に目を奪われ、冬には雪を見ながら寄り添う。
そんな四季の楽しみ方ですら、私たちには許されない。
「市は、苦しい…?」
「定勝殿に逢えないことは、とても苦しい」
逢えない間は遠く彼の地へ想いを馳せ、傍に居る時は一時でも長く共に時間を過ごす。
「我も苦しい」
そんな顔しないで。そう思うのに、何も出来ない。
「出来ることなら市を連れ去って、米沢に帰りたいな」
その言葉が現実になれば、私たちはどれほど幸せだろうか。