上杉夫婦
 上杉定勝*市姫


「美味しい?」
「…うん」

にこにこと嬉しそうに笑う定勝。隣には兎に見立てて切られた林檎、それをゆっくりと食べていく市の姿。
林檎を用意したのも切って差し出したのも、全ては定勝がやったことだった。

「米沢の庭にね、林檎の木があるんだ」

市自身本当は林檎よりも梨の方が好きだ。好きなのだが、あまりにも定勝が美味しそうに林檎を食べるものだから、ついつい林檎に手が伸びるようになってしまった。
(定勝殿のくれる林檎が、一番美味しい)

「定勝殿は手先が器用だな」

普通に皮を剥いて、食べやすい大きさに切って出すことくらいなら市にだって出来る。でも飾り切りしてみせろと言われたら、些か悩んでしまうかもしれない。
だが定勝は市の目の前でいとも簡単に兎林檎を作ってみせた。慣れた手つきで包丁を使い、市が見惚れているうちに皿に並んだ可愛らしい林檎。

「何でも出来る方がいいと、教えられたからね」
「そうか」
「市の料理だって美味しいよ」

意図せずさらりと言ってみせる定勝の口に、思わず市は兎林檎を押し込んだ。



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