松木と上杉
松木秀貞→上杉定勝
『いっそのこと死んでしまいたい』
貴方がそう言うから、俺は貴方に何度目かもわからない刃を突き立てた。
掌に空いた穴、そこから流れる赤黒い血。もう一度突き立てた。
『これじゃ死ねない』
脚を切りつけ跪き、穴の空いた手に口付け傷口に舌を這わせる。痛みに顔を歪ませるのは生きている証拠。
甘美なる血に思わず頬が緩む。
あぁ貴方の願いは何だって叶えてあげたいけれど、殺すことだけはどうしても出来ないのだ。その身体をひと突き、あるいはその首を飛ばしてしまえば一回で済むのにそれが出来ない。
貴方が死んでしまったら、彼岸に先立った彼に渡してしまうことになってしまう。彼に貴方の独り占めを許させてしまうことになる。
そんなことになったら…考えるだけでも恐ろしい。貴方は今、いいやこれからも彼一人のものではないのだから、どうかそれを頭の中に刻み込んでおいて下さい。
「定勝様、勝手に死なせませんからね」
貴方はこの世界で生きる苦しみをとことん味わうのだ。簡単になんか殺してあげない、貴方を生かすことが彼への精一杯の抵抗。
死者と争う自分はなんと愚かだろう。