井伊と伊達
 井伊直孝+伊達秀宗


真田の赤備えと井伊の赤備え、どちらの方が強いか見せてやろうじゃないか。

「…直孝ぁ」

緊張感漂う突き刺さるような空気の中、ゆったりとした口調で呼ばれた声に顔を向ければ目に付く五色水玉。
誰も止めなかったのか、得物を手にしたまま入ってくる辺りが彼らしい。

「直継殿は元気かに?」
「出る時は少し体調を崩してた」
「悪化しなければえぇのぅ」

本来なら井伊の当主である継兄がここに居るはずだった。でも兄は生まれながらに病弱であるから、代わりとしてここに今自分が居る。
出る時に継兄が泣きそうな顔をしていたのを、今でもはっきりと覚えている。

「で、何の用だ?」
「あまり向こうに居たくなくての。せやて嫌でも父様と顔を合わせないかんし」
「秀宗らしい理由だな」

言い終えると同時に抜刀し一気に振り切る。当たらないギリギリなんて甘いことはしない、下手をすれば深手を負うような、そんな距離。

「っ…!」
「お見事」

それを咄嗟の判断で得物を使い受け流す辺り、やっぱり出来るんだな、とか思ってしまう。

「向き合え」
「なっ、」
「会える時に会っておけ」

顔を合わせないことはいつだって出来る。でも、会って言葉を交わすことは今しか出来ないかもしれない。
自分は、父の顔ですらほとんど覚えていない。

「帰ったら継兄にも会ってやってくれ」

嫌な予感がした。



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