徳川と保科
徳川忠長+保科正之
「…あぁ、珍しいか」
やけにまじまじと見つめられると思えば何だ、この眼を見ていたらしい。
「赤と、青の眼…」
「お前には無いが、隔世遺伝というものだ」
母の血筋から来ているこの遺伝は、腹の違う目の前の弟には有り得ないことだ。でもやはり父は同じ人のようで、目や空気はなんとなく父に似ている。
「母上が織田と浅井の血を引くからな。織田の赤と浅井の青ということらしい」
母が言うには顔も織田系統らしい。一応自分は徳川の人間なのだから、それは喜んでいいのかよくわからない。
「綺麗ですね」
ふわりと笑った弟は、紛れもなく徳川の人間だ。父にそっくりじゃないか。
(こんな眼じゃなければ、こんな顔じゃなければ、兄は自分を見てくれただろうか)
「こんなことを言うのもおかしいが、」
きっとこの弟なら、大丈夫。
「何かあれば、兄を頼む」
自分は兄の役に立てない。早く消してしまいたくて、今か今かと機会を伺っているだろう。
ならば兄に筋が通るように画策してみようじゃないか。兄が正しくこの国を想ってくれるなら、喜んで人柱にだってなろう。
「幸松」
「はい」
「今の話は口外するなよ」
兄は知らなくていい、こんなこと。
俺のことをほんの少しでも好きになって欲しいなんて、もう望まないから。