上杉主従
直江兼続*上杉景勝
「景勝様、」
「顕景様、」
「…大丈夫ですよ、ここに居ますから」
恐らく無意識に私の袖を握りしめているであろう手に、そっと自分の手を重ねる。
雨はこの方が大の苦手とするもの。そして今日は昨日から続く些か強い雨が降っている。
「明日には、晴れるといいですね」
適度な雨が田や畑を豊かにすることは理解している、だからこそ雨を否定しきれない。でも、この方が苦手とするから好きにはなれない。
「与六、」
「…行くな」
震える手、縋るような姿。雨が唯一の弱点とでもいうべきものなのだから、どうして放っておけようか。
こんなにも無防備なこの方を、自分以外の誰かが目にするなんて考えたくもない。
「大丈夫です、顕景様」
「私は貴方様の傘ですから」
もし過去の一切を忘れてしまえたなら、少しは楽になるだろうか。
(でも記憶を手放してしまったこの方に、次も愛してもらえるだろうか?)