神戸と丹羽
 神戸信孝→丹羽長秀


「ちぃ、」
「どないしはりました?」

小さな手に袖を引かれ、振り返ると見慣れた姿がそこにはあった。
目線を合わせるように屈み、名前を呼んであげれば俯いた顔がいくらか上を向く。

「…ちちうえに、」
「はい」
「ちぃがほしいといったら、だめだとおこられた」

彼の言った「怒る」が、怒鳴るものなのか威圧的なものなのかはわからないが、とにかく即答で却下されたようだ。
怒られた割には泣くこともなく、ただがっかりしているらしい。

「でも、その呼び方が許されてはるのは、特別なのや」
「とくべつ?」
「少なくともうちにとっては、特別や」

主も何故か唯一彼にだけこの呼び方を許している。それだけでも特別扱いには変わりなかった。
でも子供にしてみれば意味がわからないのだろう。彼は首を傾げ、一度離した手で再び私の手を取る。

「ちぃにとっておれはとくべつか?」
「えぇ、もちろん」
「そうか」

それを聞くと彼は満足そうに笑った。
年相応の、愛らしい笑顔だった。





「ちぃ、聞いたか!?」
「…何を、であらしゃいましょうか?」
「俺が司令官、ちぃが副司令官で四国征伐軍を指揮する」
「うちが、三七はんと…?」

遊撃軍は率いているが、独自の部隊は持っていない。そんな自分を使ってくれるというのだ。

「嫌だったか?」
「そ、そないなことあらしゃいまへん!ただ、うちでえぇのかな…と」

嬉しくないはずがない。でも重要な四国征伐、神戸信孝という人物に続いての副司令官。それを任されたのが自分で良かったのだろうか?
そんな不安を余所に彼は私の手を取り笑う。

「俺はちぃで良かったと思っている」

「ちぃは特別だからな」

手も背丈も大きくなった今でも、愛らしいと思った笑顔は変わらなかった。



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