前田と上杉
 前田慶次+上杉景勝


「と、の、さーんっ!」

日向ぼっこしている殿さんに庭の少し離れた位置から声をかければ、こちらに気付いたのかほんの僅かに首を傾げてくれる。それを見逃さず大きく手を振れば小さく手を挙げてくれた。
そしてぱたぱたと駆け寄れば余所者にはわからないくらいの細かさで笑ってくれる。これがわかるようになるまで時間は大してかからなかった。

「…どうした、」
「いやぁ、今日も綺麗だなーって」

癇癪を起こすこともあるしほとんど表情が変わらないから人に恐れられるが、きちんと正面から見れば理解できるのだ。
兼続の言うことはもっとも。誰もこの人の本当の中身なんて見ないし見ようともしない。だから誤解され易い。

「意味がわからぬ」
「そのまま、他意なんて無いさ」

見目美しいとか、そういったことじゃないけれどこの人は綺麗なのだ。きっと壊れ物みたいな危うさの上に成り立つ綺麗だったり、神々しいとかの部類に入る綺麗さなんだと思う。

「そうか」
「殿さんのそういうトコ好きだよ」

きっとみんな、そこに惹かれてこの人に近付くのだろう。敵ですらもこの実直さと綺麗さに魅了されてしまう。
(恐らく自分も、その一人なのだが)



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