徳川と松平
徳川家光+松平信綱
感覚が全て機能しなくなり情報が遮断されるような、そんな状態に陥っている。
「ちょ、長四郎!?長四郎!?」
「…家光、様…」
「ど、どうしたた…?」
声が酷く遠いし視界も次第に霞んで来る。ぼんやり見えるのはこの人の心配そうな顔だけ。
目を閉じたら、また見えそうな気がする。阿鼻叫喚の地獄絵図、大量虐殺によって鎮圧された一揆。頭から離れない切支丹の人々と、それを片っ端から斬り殺す我ら。
あの中心に、自分は居たから。
「少し、ほんの少しの間でいいですから、」
助けてくれと泣き叫んだ声に、虫の一匹も逃がさないと言ったのは、自分だ。
切支丹以外の者も居た、幼子だって老人だって居た。その全てを、無情にも斬り捨てた。
「休みを、下さい」
気を張り続けていたためかこれといって意識はしていなかったが、それらは予想以上に精神的に負担が大きかったらしい。それが今になって感覚を狂わせる。
これでは仕事にならない。
「…今のままでは、貴方様の声もまともに聞こえない…」
不意に遠退く意識の中、ついに声は届かなかった。
(あんなものは、もうたくさんだ)