上杉親子
上杉定勝+卯松
「うーの、とうさまみたいになりたいなぁ」
「じゃあ祖父様のようにならないとだな」
膝の上でこちらを見上げ笑う息子に思わず笑みが零れる。
昔自分も同じことを父に言ったことがある気がする。そういえば、その時は父に何と言われたのだったか。
「そう、なのですか?」
「父は祖父様のようになりたくて、ずっとずっと背中を追っていたんだ」
何物にも揺らがない、義という信念を貫く為なら敵を作っても構わない。
きっとそこに、敵となった権現様も惚れ込んだのだろう。だから上杉は減封だけで済まされた。
(続が言うには父様が結城秀康様に言い寄られていて困ったとか)
そんな父様が、憧れで目標だった。
父様と同じものが見たかった、見てみたかった。少しでも近付きたくて、誉められたくて何でもやった。
「だから父に近付きたいのなら、祖父様に近付かないと」
「うのにもできるかな…?」
…あぁ、そうだ。父様のようになりたいと言ったら、不識院様のようになれと言われたのだった。父様の目標が不識院様だから、そうなれと。
『たま、ふしきいんさまみたいになれるかな…?』
『それは玉丸の努力次第だと思うが』
言葉の素っ気なさとは裏腹に、優しい父の手が何より好きだった。
「とうさま?」
ぎゅうと抱きしめた息子を見て、父も自分に対してこんな風にしてくれたのを思い出す。温かくて、幸せな気分。
その時父は何を思っていたのだろう。
「大丈夫。卯松が努力すれば、必ずなれる」
「ほんと!?」
「あぁ、心配ないさ」
父も、祖父様のことを思い出していたかもしれない。あるいは、また別の人を思い出していたかもしれない。
親になって親の気持ちがわかるとは、このことなのだろう。
(でも気付いた時にはもう、感謝の言葉は伝えられないけれど)