上杉夫婦
 上杉定勝*市姫


「ねぇ市、肥前でも雪は降る?」
「もちろん、でもきっと米沢には負けるよ」

音も無く降る雪が、辺り一帯を全て白に染めていく。
江戸に雪が降るのも別に珍しいものではないが、二人共それをただ眺めるのが好きだった。

「米沢は雪国だからなぁ」
「でもその所為か定勝殿は白いから、」

色素が薄いのか、日に焼けにくいのか、定勝の肌は夏でも冬でも変わらず白かった。それは時々、何故か神格化されたような錯覚を起こし、正室である市ですらも触れてはいけないような気になる。
定勝には兄弟がいないから、定勝だけが特別なのかどうかを比べる術はなかった。

「少し羨ましい」
「我はもう少し、色があるようになりたいのだが」

白いとどうしても貧弱そうに見えてしまう。定勝の場合は更に小柄な体型も相まって、お世辞にも強そう、などという言葉とは程遠いものだった。

定勝が杯に手を伸ばそうとすると、定勝に寄りかかっていた市がぎゅうと反対の腕を握りしめた。

「い、嫌だ…定勝殿は、そのままでいい…」
「貧弱そうに見えても?」
「定勝殿は強い、そのように見る者は見る目が無いのだ!」

定勝のことになると本気で心配したり本気で怒ったりしてくれる市が、定勝はすごく好きだった。自分以上に自分のことを考えてくれる、想ってくれるから。
実の父も母も既に亡くしてしまった定勝にとっては、市が唯一の家族だった。

「ありがとう、市」
「私の好きな定勝殿が、きちんと評価されないのが嫌なだけだ…」
「それ以外も全部、ありがとう」

ゆっくりと取った市の手に小さく口付けを落とし、引き寄せて抱きしめる。
雪はまだまだ止む気配を見せやしなかった。



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