徳川と松平
徳川秀忠+松平忠直
油断、していた。
「秀康兄上から聞いてなかった?」
実際は父の存在に甘えていただけらしい。
「僕は、嫉妬深いしとことん根に持つ、って」
背筋が凍りつくような笑顔が恐ろしい。普段は虫も殺せないような顔をしているのに、今は真逆で視線に射殺されるみたいな感覚。空気があまりにも冷えきっていて動くこともままならない。
叔父が臆病で心配性なのは知っていた。だから大きな態度を取ってドンと構えていれば何ともないと思っていた。
それがまさかこんな風に裏目に出るとは考えもしなかった。
「叔父、上…」
「秀康兄上のことは大好きだよ」
「ならば、」
「でも君は別だ」
耳を疑った。いくら何でも例外とされていたこの家に手出しはしないと、何故自分は思い込んでいたのだろう。
(将軍となった叔父が何より大事にしていたのは、この家ではなく父自身だったのに!)
「君の中に流れる血の半分は確かに僕が誰より憧れた兄上のものだ」
「でもね、君は勿論兄上じゃない」
処刑宣告をされた気分だった。
冷や汗が背筋を伝い、言葉を忘れたように声も出ない。きっと何を言ってももう叔父の考えは変えられない。
「だからもう要らないよ」