樋口と長尾
樋口与六→長尾顕景
※小さい頃の話
きらきらと輝く人がいた。雪に溶けるように白くて、ひやりと冷たい手を持つ綺麗な人。
「どうした、与六」
思わず見惚れていたら急に声をかけられ、端と我に帰る。思ったよりも近くにその綺麗な顔があって、驚くよりも先に手が触れていた。
綺麗ではあるが目を引くほどの美しさはない。ただ、内にきらきらとするものがあって、それに惹かれるのだと最近知った。
「顕景様は雪のようです」
少し、ほんの少しだけ口の端が動いた。でも手を振り払われないのは嫌がられていないということも知っている。
長い髪は風に吹かれふわりと揺れ、その度に何やらいい香りがする。
「嫌いか?」
「好きです」
何が?雪は好きだ。越後を潤す自然の恩恵だから。
他には?顕景様を誰よりも慕っています。ずっとずっと昔から。
「顕景様が、好きです」
言葉が滑るように流れ出す。それがこの人を困らせるのも知っている。でも言わずにはいられなかった。
「…そうか」
いつも通り笑ってはくれなかったが、自分よりも大きな手が頭を撫でてくれた。それがすごく、嬉しかった。