武田と上杉
 武田勝頼+上杉景勝


※「考えるだけで震える」とほとんど同内容




「勝頼殿」

珍しく、景勝から声をかけた。特に用事なんて無かったのに、何となく呼び止めたかった。
口数の少ない景勝がまさか自分を呼ぶなんて、予想もしていなかった勝頼はもちろん驚いたけれど、返事の代わりに景勝を呼ぶ。

「景勝殿」


「やってみたいことがあるんだ」
「?」

前を歩いていた勝頼が振り返り、景勝に向かって手を伸ばす。地に置いた槌は重い音を立て直立する。


「景勝殿と、刺し違えてみたいなぁ」

唐突に発せられた台詞。いつものように柔らかく笑って、でもその目は明らかに本気の色をしていて、単なる冗談ではないことを示していた。
その言葉を聞いてキョトリと一瞬だけ僅かに表情を変えた景勝だったが、それもすぐ元に戻して普段通りにゆっくりと口を開く。

「――…我も、同じことを思っていました」

お互い小さく手が震え、それぞれの得物に手をかけないよう必死に抑えていた。

手をかけたら、抜いてしまう。
手を置いたら、振り上げてしまう。
抜いてしまった刀も、振り上げてしまった槌も、きっと相手に触れるまで止まらない。

「やはり、」
「貴方も私も同じだ」

どこか似ているとは思っていた。でも、それがまさかこんな所だとはお互い思ってもいなかったけれど。
血は争えないなんて、それはこのことだったのだろうか。かつての領主達のように、刃を交えてみたくて堪らない。



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