上杉主従
直江兼続*上杉景勝
貴方に傷を付けることなど、誰であっても許されないことなのだ。
白く、強く美しい貴方に、誰が。
「…どうした」
白い頬に走る一筋の傷。一部が僅かに短くなった髪。そこに触れるだけで、苛立ちが沸々と募っていくのがはっきりとわかる。
「誰に付けられたのですか」
「我の力量不足だ」
この方は私が必要以上に苛立たないように、気を使ってそう言って下さる。でも、そんなことじゃ収まらない気持ちは醜く鋭く溜まっていくばかり。
私が目を離したその隙に、誰が、貴方を傷付けたのですか。今聞きたいのはそれだけ。
「誰に、付けられたのですか」
「――…結城殿の槍を避け切れなかっただけだ」
目線を外しながらもはっきりと告げられた言葉。思わず頬の傷に舌を這わせた。
びくりと震えた肩を掴み、逃がさないように固定してしまう。
「与六…っ!」
「嫌です、貴方が傷付くのは」
「馬鹿なことを申すな」
「本当です」
結城秀康、彼の持つ身の丈以上もある槍がこの傷を作った。
どうして私は傍に居なかった、どうして私は止められなかった。どうして、どうして。
「貴方を傷付けることは、誰であろうと許されない」
「大袈裟だ」
きっと彼は何も悪くない。なのに自分の中でそう処理出来ないのだ。
そんな自分が、嫌で嫌で仕方ない。